忘れない 君と紡いだ記憶を 守りたい 君が僕に見せてくれた笑顔を 愛してる ただそれだけで Tune the Rainbow その日は昨夜からの雨が降り続いていた。 風も吹かず、地面を叩きつけるような酷い大雨でもない。 ただ静かにそっと降り注ぐ小糠雨。 窓の外を見て、止みそうもない天気にガッカリするなのはが唸り始めた。 「あーうー…っはぁーついてないなぁ」 窓から離れたなのはは勉強椅子に腰掛け、手に持っていたお気に入りの猫のぬいぐるみをギュッと抱き締めた。 だって今日は 今日は 「なのは、機嫌直してよ」 「だってだって…せっかくのユーノ君とのデートだったのに…」 なのはが用意してくれたオレンジの紅茶を口にしながら、肩をすくめるユーノ。 なのはとユーノ、それぞれが時空管理局専属になってから2人で会える回数は極端に限られるようになった。 なのはは自分の世界での学業もあるし、ユーノは勤めている職場・無限書庫でトップの称号でもある司書長になったばかりで更に多忙の毎日。 それが嫌なわけじゃない。 お互いがやりたい事が見つかって、それを実現させてくれる場所に自分達はいる。 だけど、時間が合った時ぐらいは神様だって味方してくれてもいいんじゃないか? そう願うのは我侭なんだろうか。 自分達は ただ 愛する歓びを分かち合いたいだけなのに 「お天気が良かったら、手づくりのお弁当を持って一緒にピクニックに行く計画だったのに…フェイトちゃんたちも計画作り手伝ってくれたのに…」 「また次があるから。だから元気出して?ねっ?」 「うん…」 元気がないまま軽く頷くなのは。 まるで今のどんより天気が、そのままなのはの心に反映されているかのように。 何か話しかけて元気出さなきゃ。 そう彼氏として 男として 直感したユーノはそっと名前を呼んだ。 「なのは」 何も疑わない純真な瞳のなのはが、無言でユーノを見つめる。 ベットの上に腰掛けていたユーノは、なのはに向かって手招きした。 クスッと笑う、その笑みは君が愛しいと伝える微笑み。 「……っ」 それを目で感じたなのはは少し頬を赤く染めつつ、ユーノの隣りにちょこんと座った。 そしてゆっくりと自然と身を預けるように、彼の肩に自分の頭を置いた。 なのはの甘えに応えるかのようにユーノは、彼女の肩を抱き寄せた。 「なのはは見かけによらず、実は凄く甘えん坊だよね?」 「うっ……迷惑?」 「全然。むしろ可愛くて襲いたくなっちゃうよ」 「ふ、ふぇ…っバカぁ…」 真っ赤になった自分の顔をユーノの服で隠すなのは。 するとユーノの声が聞こえてきた。 「こんな時間も僕は好きだよ」 「え?」 ハッと顔を上げるなのは。 同時に唇に柔らかなな感触と温もりが届いた。 ほんの一瞬 わずかに触れられる唇と唇。 優しくそっと口づけて、ユーノは言葉を発した。 「なのはと一緒だったらどんな場所でも、僕にとってそこは幸せな居場所だから」 「……っ」 「なのはは?」 聞き返すユーノに、なのははモジモジさせて面映ゆい思いで伝えた。 「…言わなきゃダメ?分かってるくせに…」 「なのはの口から聞きたいよ。じゃなきゃ信じない」 「あぅ…」 ユーノが一枚上手のようだ。 真顔で真っ直ぐに見つめられる綺麗な翡翠の瞳に、なのはは悩殺されて逆らえられなくなっていく。 そして意を決しゴクリと唾を飲み込んで、囁くように声を聞かせた。 「…なのはの事だけが大好きな ユーノ君と一緒ならなのはも凄く幸せです…」 「…はい、よく出来ました」 本当に嬉しそうに笑ったユーノはご褒美にもう一度キスをする。 今度は舌を絡ませて、激しく 愛しいを教え込ませるかのように 「うぅん…!はぁっ!あぁぅううっ…っ」 ギュッとユーノの胸元の服を掴んで、彼からのアプローチを受け止めるなのはの甘い声が部屋中に響き渡る。 何度も何度も経験してるはずなのに まるでフェーストキスのように痺れてしまう。 「…っ…!だ、大丈夫?なのは」 そろそろ気を失う寸前だったなのはを見て、ユーノは行いを止めた。 既にディープキスの余韻でデロンデロンになったなのはは、ユーノのキスから解放されるとそのままベットに倒れ込んだ。 「だ、だいじょうぶ?じゃないよばかぁ〜〜〜〜」 さっきまで触れられていた自分の唇を手で隠し押さえながら、涙目で訴えるなのは。 少々困った表情を見せたユーノだが、それもすぐに消えた。 「でも“ごめん”は言わない」 「……言ったら怒る」 言葉の意味が分かったなのはが真面目な顔で言い返す。 キスしたいからする。 自分達は悪い事は 何一つしていないのだから。 「それに…さ」 「?」 「きっとこの後、奇跡が起こるよ」 「奇跡?」 意味深なユーノの予言になのはは首を傾げた。 奇跡なんて、予言出来るものだろうか。 予知出来ないからこそ 不可能を願っているからこそ 起きるのが奇跡なのではないかと。 「さっきここへ来る前に天気予報見てきたんだ。そしたらちょうどこの時間には……」 スッとベットから立ち上がったユーノは、さっきまでなのはが見上げていた窓から空を眺めた。 一瞬表情に驚きの顔色を見せ、そして穏やかに笑った。 「なのは。ほら見てみなよ」 いつの間にか雨の音が消えて、部屋には太陽の光が差し込んでいた。 ユーノに呼ばれたなのはは身体を起こし、彼がいる窓の傍へ歩み寄る。 そしてゆっくりと空を見上げると 「…虹…っ」 なのはの目には、形良い綺麗なアーチ型の七色の虹が見えた。 見えても大抵は半分欠けているのがほとんどなのに、今日の虹はくっきり繋がっていた。 「…僕もさすがにちゃんと形になってるとは思わなかったけどね」 「なのはもくっきり全部は初めて見たかも」 そして2人は無言で空に描かれている虹を見つめ続けた。 もし、2人が逢える日が今日じゃなかったら もし、今日が澄み渡るぐらいのいいお天気だったら もし、今いるこの場所にいなかったら 見えなかったら 何より 隣りに 愛しい人がいるからこそ 生まれた一種の奇跡の瞬間 キミがいなかったらきっと こんな感慨に浸るほどこの虹を見てはいなかっただろう 「なのは…今日ユーノ君と見たこの虹…絶対忘れない」 ギュッとユーノの手を握ってなのはが言うと、強く握り返し彼も口を開いた。 「うん…僕も…幾年の月日が過ぎ去っても、ずっとずっと覚えている…なのはと共に」 「…フフフッ」 「フフッ」 まだキスの余韻が残る赤いホッペのままのなのはが、ユーノに見せるとびっきり最高の笑顔。 微笑む彼女の笑顔を全て、ユーノはこの瞬間を絶対に忘れないと心に誓った。 「なのは」 「なーに?ユーノ君」 「大好きだよ」 「……ユーノ君の好きが溢れてるね、この部屋」 そっと手を離したなのはの腕が、今度はユーノの首の後ろへと回す。 そして、消えそうな小声で伝えた。 「身体全部で受け止めないと…受け止めきれないよぉ…」 「……っ」 なのはの真意を知ったユーノは、ほんの少しだけ口元をフッと上げた。 小さなその身体を抱き返して囁く。 「泣いて止めたって、知らないよ?」 「が、頑張ってみる…」 「スイッチ入ったら止められないから」 「うん……ユーノ君だから…大丈夫だよ」 「なのは―――――――愛してる」 綺麗な虹に見守られて 2人は抱き合った 互いに生まれたままの姿で 心と心を繋ぎ止めるかのように 固く手と手を握り合わせて 愛してる ただそれだけで 全てが満たされていくんだ―――――――――― 2007.09.16 完成 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-* 『深淵の種 SEED IN ABYSS』の優斗様に捧げます。 10万HITおめでとうございます! そして読んで下さった全ての皆様に深く感謝申し上げます。 cielo∞ そらねこゆき ああもう感謝感激の雨霰嵐ですよほんとっ!(ぉ 何て言うかもう甘甘過ぎてニヤニヤが止まりませんw そして素晴らし過ぎです! そらねこゆきさんの文才に嫉妬してしまいますよぃ!(殴 そらねこゆきさん、ほんとにありがとうございましたーっ! 宝物庫へ戻る |