「ねえ。ユーノは私のこと、どう思ってる?」

それは、なんでもない、快晴の空の下。



一番星



「……ん?」
「ユーノは、私のこと、どう思ってるのかな、って」

大事なことは二度言うに限る。ユーノは顎に手を当て、少し上を向いて考えている。

「そうだなぁ。やっぱり、幼馴染、かな」
「それだけ?」

もう少し、なんというかこう、ないものか。

「ん……。大切な幼馴染?」
「もう一声」

そんな何度聞いたかわからないような答えを女の子は期待しないんだよ? ユーノ。

「ふむ。かけがえのない、がさらにつくね」
「30点」
「ひくっ!?」

良くも悪くも真面目。だから義兄とは犬猿なのだろう。磁石が同じ極同士では反発しあうように。

「じゃあ、ねぇ。一番星について、説明できる?」
「こっちの?」
「こっちの」

こっち、とは今いる海鳴のことだ。

「なんで一番星?」
「さあ?」

ただなんとなく、だ。そういう時もある。どんな時だ。

「学問として、それとも、個人的主観でかな」

相変わらずの学者らしい聞き方だなぁ。まあ、本業なのだからこうでないといけないか。

「ちょっと欲張り気味で」
「仰せのままに」

ユーノは、わかってますよ、と言わんばかりに即答して思考を巡らし始めた。
なんだろう、少し悔しい。なぜかはわからない。だから余計にもどかしい。

「一番星。一番最初に光り出す星。夕暮から黄昏時にかけて光る出す星の中で、個々人が最初に見つけた星。
 なので、明確にこの星が一番星、と固定されたものではない。当然、一等星のように明るい星がそうなる確率が高い」
「そう」
「まあ、その人が一番に見つけた星が、一番星ってことになるね」
「まんまだね」
「うん」

その人が最初に見つけた星、かぁ。

「じゃあ、やっぱり一番に輝かないといけないのかな」
「そんなことないよ。二番目に見つけた星の方が好きだって人もいるだろうし、一番星が嫌いだって人もいると思う。
 人それぞれ。十人十色。要は、その物事に対する捉え方と考え方次第だと思うな」
「そうなんだ」
「事実は一つしかないんだと思う。でもね、その事実に対する認識の仕方っていうのは、人の数だけ存在する。
 その人にはその人なりの受け止め方があるからね。それが、その人の現実になる。そこを理解しようとするか、割り切るかでもまた変わってくる」

なんだか難しい話になってきた。まあ、そう感じるのは、私にそこまで深く理解しようという気がないだけかもしれないけど。

「例えば、今僕達が座っているベンチの下に空き缶が転がっています」
「え?」

あ、本当だ。全然気付かなかった。

「僕もさっき、下を向いた時に気づいたんだけどね」

そういうとユーノは空き缶を拾い、ちょっと遠いゴミ箱に投げる。
空き缶は見事にそれてゆき、人気のない公園に虚しく乾いた音を響かせた。
ありゃ、とユーノは少しバツの悪い顔を見せ、転がった空き缶をゴミ箱に入れ直して戻ってきた。

「ユーノ、いくらなんでも下手っぴすぎ」
「流石に今のは、僕でもちょっと」

ユーノは苦笑いして、私はくすくす笑って。
コホン、と咳払いしたかと思うと、ユーノはまた学会で見た時のような学者に戻っていた。

「話をそらしちゃったけど」
「空き缶もそれちゃったね」
「……あ〜、うん、まあ」

そうなんだけど、そうじゃなくて。
そんなユーノがおかしくて、また笑ってしまう。

「とにかく、空き缶が転がっていたのは事実だった。
 けど、僕達は最初それを知らなかった。事実はあっても認識してはいなかった。
 でも、僕が空き缶があるという事実を認識して、フェイトに伝えると、それは僕達にとって初めて現実となった」
「そこにあったとしても、認識していなかったら、存在しないものと一緒」
「そう。そして、僕達は認識に自分色を加えていくんだ」

ある程度はわかるけど。これ、女の子と二人で話す内容じゃないよね? ユーノ。
まあ、最初に疑問吹っ掛けたのはこっちだけど。

「僕は空き缶を見つけて、ゴミ箱に捨てた」
「すっごくそれ――」
「でも、とある誰かは、そのままにしておく人もいるだろうね。ここでもう違いが出てくる」

無視された。大事なこと以外は、何度も言うと面倒なのだろう。自分でもそうだ。
特に、ちょっとした失敗話なんかは。……ノーコンって、そこまで恥ずかしいもの?
変な思考を巡らせてしまった。まあ、ユーノは熱が入ると一人延々と喋っているのも普通だから、別にいいのかもしれない。

「そして、そんな違いに対してでも、捨てるのが普通だろうって思う人や、別に気にしない人もいる」
「まさに十人十色だね」
「うん。だから、気にしてもしょうがないっていえば、ほんと、しょうがないんだけどね。
 でも、人って、何かと自分を比べないと、自分を知ることが中々できないんだ」

それはそうだろう。私も、昔はそうだった。そうして、酷く自分を卑下していた。今でもたまにある。
まあ、昔に比べれば、そのたまには、もうほとんどないようなものだろうけれど。

「ユーノも?」
「そうだね」
「そっか」

ユーノも、ずっと悩んできたのだろう。
私も含めて、アースラスタッフと呼ばれたメンバーが皆前線に居続ける中、ユーノは無限書庫を戦場とした。
本当は、その時からずっと。……ううん。なのはに出会ってからずっと。

「……ユーノは、今でも、なのはの隣で飛びたい?」

こんな、答えがわかりきっていることをわざわざ聞いてしまうのは、なぜなんだろう。
私は、ユーノの口から紡がれる言葉に、何を期待しているのだろうか。それは、期待していいことなのか。

「――そりゃあ、ね」

青い、どこまでも透き通っていた青にオレンジ色が混じってきた空を仰いで、ユーノは呟いた。
その眼に映し出される空には、何があるのだろう。何を見ているのだろうか。
無限書庫でずっと、忍び、堪えて、耐え続けてきた少年の心は、青年へと経て、何を想うのだろう。
何を感じるのだろう。
何を願い、何を望むのだろうか。

「私が、なのはの隣で飛ぶようになった時も?」
「もちろん。悔しかったな。自分が情けなかったし、不甲斐なかったよ」
「じゃあ――

 じゃあ、ユーノは、私のこと、

 ――憎かったりした?」
「……ああ、そうだね。少し。うん」
「そ、っか」

やっぱり、そうだったんだ。
私は、ユーノの居場所を奪っちゃったんだ。
私って、凄く酷いこと、しちゃってたんだな。嬉しくて気づかなかっただけで。
ううん。気づいてないフリをしてたんだ。きっと。
ユーノは優しいから、許してくれるって。そうやって目を背けて、甘えてたんだ。
違う。今も甘えてる。多分、これからもずっと、そうしていくんだ。
……ダメだなぁ、私。全然変われてない。

「たまに思うんだよ」

俯いたまま、私は続きを待つ。

「僕ってほんと、全然変わってないな、って」
「……え?」

その言葉に、私は思わず顔を上げる。
ユーノの横顔は、悲しく辛い、でも、僅かに嬉しそうな、そんな複雑な笑みを浮かべていた。

「皆、どんどん夢を叶えていってる。一生懸命、前に進んでる。
 でも僕は、皆に置いてかれるばかりでさ。
 今の質問に関してだって、フェイトは全然悪くないんだし。
 ほんと、情けないよ」
「そんなこと」
「でもね」

そこでユーノは、私を見つめる。
とても綺麗な、優しい笑顔で。

「最近は、そう思うことが随分少なくなった」
「そう、なんだ」
「うん。ほんと、もう十年も経ってるのにね」

だから君の兄貴にヘタレって言われるんだろうな、なんて呟いてる。
二人のやり取りが手に取るようにわかるのは、全く仲がいい。

「今はね、ヴィヴィオが無限書庫に来て、本を読んでってねだるんだよ」
「知ってるよ。ヴィヴィオ、いつも嬉しそうにしてるもの」

学校の帰り、ヴィヴィオはなのはとの待ち合わせ場所に無限書庫を選んだ。
いや、まあ選んだのはなのはだけれど。
そこまで信頼しているのなら、いい加減気付けばいいものを。
なのはもなのはで、マイペースな子だ。
本人たち以上に歯がゆい思いを誰がどれだけさせられているのか、わかっているのだろうか。
……わかってないんだろうなぁ。

「それだけで、無限書庫を選んでよかったって、思えちゃうんだよ」

笑っちゃうよね、とユーノは本当に嬉しそうに笑っている。
つられて私も笑ってしまう。やれやれ、どれだけ親馬鹿なのか。
あまり甘くするといけないって、こ○こクラブにも書いてあったんだよ、ユーノ。

「あんまり甘やかし過ぎちゃダメだからね」

ふふん、ここは先輩であるこのフェイトさんが教えてあげないとね。
いっつも教えてもらう側だし。たまにはいいだろう。むしろいつもこうでもいい。
と、ぽけっと私を見ていたユーノは意地悪く笑って、

「フェイトにだけは言われたくなかったよ」

なんて言うんだよ。
まったく失礼しちゃうなぁ。
私はそこまで親馬鹿で甘やかしてなんか――。
――なんか。……いや、まさか、そんなことはあるまいよ。

「だって、エリオもキャロもほんとに良い子だよ?」
「良い子すぎだよ。
 もう少し我儘言えるようじゃないと、大人になったら溜め込むよ、色々と」

う……。確かにこ○こクラブにも、いきすぎは良くないって書いてあった。
むぅ。ならば今日帰ったら、思いっきり甘えさせてあげよう。
今日はご馳走だ。腕によりをかけての豪華な手作り晩御飯だ。
久々に三人でお風呂にも入ろう。最近はエリオが一緒に入ってくれない。ちょっと寂しい。
そして川の字になって寝るのだ。うむ。素晴らしい。パーフェクトだ フェイト。

「大丈夫。フェイトは変わってる」
「――え?」

一人うんうん頷いていると、急にそんな事を言われた。

「さっきまで暗い顔だったのに、今はもう影もない。
 変わったよ。前のフェイトだったら、ずっと暗いままでさ」
「そ、そう?」
「そうだよ」

まるで私を見透かしているみたいじゃないか、これじゃあ。
まさか服まで透かして見えているんじゃないだろうか。
っておいちょっと待て私。いくらなんでもそれはない。これじゃまるで変態だ。
いや、でもユーノになら見られても……。違う違う違う違う。おかしい。落ち着け。KOOLになれフェイト。

「ほら、今だってコロコロ表情変わってるし」
「う」

そういってからから笑うユーノ。
むう、手綱、もとい、主導権を握られっぱなしだ。
このままではいけない。なんとか挽回せねばなるまい。そんな気がする。無性に。

「ユーノだって、良く笑うようになったよ。
 ようやく冗談を言えるようにも聞けるようにもなってきたし」
「む」

見ろ、見事なカウンターで返した。これで勝った! 第三b(ry

「フェイトにそう言ってもらえるなら、僕も変われたんだろうね。
 ――ありがとう」

……でも結局、負けちゃうんだよね。
そんな綺麗な顔で、綺麗な眼で、綺麗な笑顔で。
さらっと言っちゃうんだもん。負けちゃうよ。勝てないよ。ずるいよ。ユーノ。

こんなに綺麗だと、私の一番星になっちゃうじゃない。
もうなってる、なんて何人かの私が呟くが、そんなものは無視する。
今は私とユーノ。二人っきり。コレ重要。私にだって譲るものか。

「……バカ」
「へ?」

だから、これくらいは言ってやらないといけないのだ。
超弩級鈍感朴念仁には、これくらい言ってやらねば気が済まない。
不思議そうに見る面白顔のユーノを独り占めしたって、バツなんて当たりはしない。当たる訳がない。

「あー!」
「フェイトちゃんにユーノ君」

――当たるのか。当たってしまうのか。oh,Jesus…….
神様は気まぐれだ。いや本当に。たまにトライデントスマッシャーの一発でもかましてやりたいぐらいに。
怒り気味のアリサと嬉しそうなすずか。大学生の二人。会える時間は負けるがスタイルは負けない。

……負けてないっ!!

「アリサにすずかじゃないか」
「何よ、いちゃいけないわけ?」
「まさか」
「ったく。いつも言ってるでしょーが。こっちに来てるんなら連絡しなさいよって」
「ごめんごめん」

くぅ。アリサ、顔近い。近いってば。ずるい。

「フェイトちゃんったら、ずるいんだぁ」
「……そんなことないもん」

すずかがぼそっとそんなことを言う。
いやいや。私は決してずるくはないのだ。なのはがずるすぎるだけなのだ。
わかってる。多分、なのはには勝てないんだろう、ってことぐらい。四人とも。
でもね、女の子はね、ユーノ。0じゃない限りは、すっごく頑張れるんだよ。
ほんとのほんとに、頑張れるんだ。手にするのが難しいなら、なおさら、ね。

「ほら、バツとしてこれからは私と付き合いなさいよね」
「アリサちゃん、私は?」
「……チッ」
「もう。アリサちゃんもずるいんだぁ」
「私は? ねえ、私は?」
「「 フェイト(ちゃん)は時間切れ 」」
「そんなぁ」
「僕の意思は?」
「「「 ない☆ 」」」

その後は、必死に三人についていった。
やっぱりなんだか、横取りされた感がハンパない。それは悔しい。実に悔しい。
なにせ今日は久しぶりに会えたのだから。本当に嬉しかったのだから。
……むう。やはりトライデントスマッシャーでは生温い。プラズマザンバーにLvUPだ、ジーザス。



そんな中――

「あれ、私の出番は?
 出番はどこやのん?
 ……ここだけぇっ!?」
「フェイトさん……」
「お腹すきましたぁ……」
「キュクー……」

こんな声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。

めでたしめでたし




あとがき

随分久しぶりに書いたのが予想を見事に裏切ってユノフェ。多分初書き。
溜まりに溜まったユーなのパワーは恐らくア○デルセンにエィメンされたに違いない。
てかユノフェいいなユノフェ。管理人のリビドーがフォトンランサーファランクスシフト。


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