遺跡発掘を生業とする部族、スクライア一族から第一級捜索指定がかけられている危険物、 ロストロギア(Lost Logia)が発見されたとの報告を受け、現場に近い次元空間を航行していた、 巡航L級8番艦次元空間航行艦船"アースラ"が急遽本件担当となる。 : : : 現場に転送魔法で急行、まず目に入ったのは、高さがおよそ3m・横幅1.5m程のカプセルで、 かなり高度な技術で作られたと思われるそれの中には、 青年(推定年齢16〜18歳)がまるで母親の子宮の中で佇む胎児のように眠っていた。 近づこうにも周囲に強力なバリアが張ってあり、接触できない為回収は困難かと思われた。 しかし、一人のスクライアの少年が近づいた途端、円形の三重外枠の内側に八角星が 浮かび上がる謎の魔法陣が出現、カプセルは開かれ、中にいた青年は外に出される。 直後、青年は変身魔法と思われる魔法によって、9〜10歳程度の少年に姿を変えた。 少年に姿を変えた青年に意識はなく、直ちにアースラの医務室に運ばせた。 カプセル型のロストロギアは機能停止。 以降は全く動く気配が無く、解析処理等は現場に到着した遺失物管理班に一任。 : : : なぜスクライアの少年(名はユーノ・スクライア)が近づいた途端にロストロギアが反応したかは不明。 推測の域を出ないが、彼が所持していたインテリジェントデバイス、レイジングハートが ロストロギアと共鳴反応を示した様にも見えたが、一瞬の事だったので詳細不明。 時空管理局内のメンテナンスルームにおいて検査を予定している。 : : : カプセルの中にいた少年(以降は少年と記述する)は、発見されてから二日が経過した 現在でも目を覚まさないため、事情を聞く事はできていない。 しかし、少年の耳についているイヤリングはデバイスであった事が判明。 言葉を話せる事からインテリジェントデバイスと思われたが、あまりに流暢に話すために インテリジェントデバイスと断言することはできない。 少年の左耳についている、純白の薄いリング状のイヤリングの形をしたデバイスは、 自分の事を""と名乗り、 右耳についている漆黒の八角星の形をしたイヤリングは""と名乗った。 また、少年は"・"という名である事が判明。 それ以外は何も話さない為、少年に関する記述は以上とする。 : : : 本件での報告は以上である。 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 時空管理局本局内応接室 時刻23:36 「……ロストロギア関連の事件は、いつもの事だが謎ばかりだな」 先程まで、厚さ3cmはあるかと思われる事件報告資料に物凄い速さで目を通していた人物は、吐き捨てるように言った。 ギル・グレアム 時空管理局提督にして歴戦の勇士と謳われる人物。 かつては艦隊指揮官・執務官長を歴任したが、ある事件をきっかけに前線を退き、現在は顧問官をしている。 「……本当は、あなたにロストロギア関連の話をしたくはなかったのですが……」 そう言って、少年は申し訳なさそうに顔を伏せる。 クロノ・ハラオウン 11歳にして難関の時空管理局執務官試験に合格した一流の魔導師。 執務官となっての初任務終了後に今回の件を急遽受け持ち、現在に至る。 「いや……私のような者でいいなら、どんな小さな事でも相談に乗るよ」 クロノの胸中を察したかのように、グレアムは答える。 自らに対する怒りと後悔を覆い隠すため、そしてなによりクロノに余計な心配をかけさせないために、なんとか微笑んでみせた。 「……ありがとうございます」 グレアムの言葉で、クロノは幾分か心が軽くなったように感じたが、暗く沈んだ表情を隠す事はできなかった。 いくら一流の魔導師であっても、難関の執務官試験を合格していても、実際にはまだ11歳の子どもでしかないのだから……。 クロノの心境を読み取り、自分の無力さを呪いつつも、暗い雰囲気となった場を払い除ける為にグレアムは話を元に戻した。 「しかし、今回の件で負傷者が一人も出ずに済んで良かった」 「ええ……あれは中に収めているモノを保管するだけだったようですから。 ロストロギアといっても、それほど危険な代物ではありませんでした。 ですが、報告書にある通り詳細は不明です」 クロノはグレアムの心配りに感謝しつつ答えた。 そして、いつまでも落ち込んでるんじゃないと自分に言い聞かせ、普段の表情に戻した。 その表情は、11歳の少年とは思えない程に厳しく、そして悲しいものであったが。 ロストロギアが関わる事件には負傷者が出る事が殆どで、死者すら出る事も珍しくはない。 そう考えれば、今回は負傷者が一人も出ていない、少なくとも、管理局内に暗い空気をもたらすような事件ではなかった。 ただ、管理局の研究員達にとっては一大事件となってしまっていたが。 今回発見されたロストロギアは、接近を妨害するだけで攻撃してくるようなものではなかった。 しかし、遺失物管理班が解析しても得られたデータは皆無に等しく、『非常に高度な魔法技術で作られている』という、 既にわかりきっている事意外はお手上げの状態であった。 「ふむ……それに関してはどうしようもあるまい。 それで、私に相談というのは、この報告書に書いてある少年とデバイスの事かな?」 「え……あ、はい、そうです」 クロノは一瞬面食らってしまった。 まさかここまで的確に自分の言いたい事を言い当てられるとは思っていなかった。 敵わないな……と心中で呟きつつ、自分には越えるべき壁が多くある事を再び認識させられた気がした。 目の前にいるグレアム提督、母のリンディ、そして……父のクライド。 そこまで考えて、クロノは考えに浸ることをやめた。 今は目の前にある問題を解決しなければ、と。 「この少年とデバイスは、研究員達にとっては非常に興味深いものとなる筈です。 万一にもそんな事はないと思いますが……提督の方で彼らの安全を保障してもらえませんか?」 未確認の魔法陣・あまりに流暢に話すデバイス、これが研究員達の研究意欲を刺激しない筈は無かった。 「そうだな……私もそんな事はないと思うが、備えるに越した事はないだろう。 わかった、彼らの処遇ついては、私から話を通しておこう」 「ありがとうございます、提督」 そう言って、クロノはようやく微笑んだ。 その笑顔を見るだけで、グレアムは胸が引き裂かれそうになったが、この子の頼みとあらば必ず成し遂げなければと、強く心に誓った。 どんなに小さな事でも力になる……リンディ、そしてまだ幼かったクロノに誓った、クライドの葬儀の時の事を思い起こしつつ。 「それでは、僕はこれで……」 そう言うと、クロノは軽く一礼して席を立つ。 「ん、あまり無茶はするなよ、クロノ」 「はい、提督もお体に気をつけて」 応接室を出たクロノは、ふぅっ、と一つ息を吐いた。 やはり、あの人に相談する事ではなかったかな……と、今更思い直している自分に嫌になりながら、例の少年が眠っている医務室へ足を運ぶ。 あれから一週間、未だ目を覚まさない少年と、名前以外何も話さない不思議なデバイス。 とりあえず、彼が目を覚ますのを待つしかないなと考えたところで、不意に念話が繋がる。 『クロノ君聞こえる!? 大変だよー!!』 相当な大音量で、聞き慣れた声が頭を揺さぶる。 エイミィ・リミエッタ アースラ通信主任兼執務官補佐、13歳。 アースラの実質No.3で、クロノとは時空管理局・士官教導センターの頃からの同期。 『……エイミィ、頼むから急に大声で叫ばないでくれ……で、なにがあったんだ?』 頭がガンガン痛むのを我慢して、とりあえず用件を聞いてみる。 『それが……あの子、君……だっけ? 医務室からいなくなっちゃったの!!』 「なんだって!?」 思わず声に出して叫んでしまい、周りの注目を一気に集めてしまったが、そんな事を気にかけている余裕はクロノにはなかった。 頭が痛むのも忘れて、クロノは医務室の方へ走り出していた。 あとがきらしきもの 優斗「さぁさぁ始まりました、魔法少女リリカルなのは原作沿い夢小説『深淵の種T』の記念すべき第一話!の前編!」 クロノ「まあ……始まったはいいんだが、どうしてこんなに暗い雰囲気なんだ?」 優「うっ……それは……まぁストーリー上の都合というかなんというか……あははははは」 ク「笑って誤魔化すな! 大体僕暗すぎだろ!?」 優「いやいやいや、すぐにもとのいじられクロノ君に戻りますよ!」 ク「ぐっ……やっぱり戻さなくていいかも……」 エイミィ「ふっふっふ……嫌でもこのあたしが戻してさしあげますよ〜♪」 ク「エ……エイミィ……勘弁してくれ……」 エ「それはできないね〜♪」 優「まぁそんなこんなで頑張っていきますので、皆さん応援よろしくお願いしますね!」 ク「あんまりだあああああああ」 NEXT 『深淵の種 T』へ戻る |