"アースラ"艦内管制室 同日 時刻11:47


 「お久しぶりです、グレアム提督」
 「こんにちは、グレアムさん」

 クロノとがモニターに映ったグレアムに挨拶をし、エイミィが軽く頭を下げる。

 『ああ、ご苦労だったな、クロノ、、エイミィ君』

 グレアムが温和な笑みを浮かべて答える。

 「それで提督、今朝送った資料はもう見て頂いていると思いますが……」
 『うむ、彼女……フェイト・テスタロッサとその使い魔についてだったな。
  その件については既に上と話をしてきた。 結論が出るまでには今しばらく時間がかかるだろうが……なんとかしよう』
 「相変わらず仕事が早いですね〜」

 「こら、失礼だぞ」
 『はっはっは。 なに、顧問官というのはそれなりに暇な役職でね。 それに私は老いぼれだ。 そんなに気を遣わなくても良い』
 「だってさ、クロノ」
 「……いくら提督がそう言っても礼儀くらいしっかりしろ。
  それで、僕も明日管理局に戻って色々と話をつけておきたいと思うので、アポを取っておいて貰えませんか?」
 『わかった。 リーゼ達も喜ぶだろう』
 「あぁ……二人には……その、内緒にしてもらえませんか……?」

 クロノが物凄く困ったような表情をして訴える。

 『ははは、少し意地悪だったな。 とりあえず、明日からの事については任せてくれ、手を回しておこう』
 「ありがとうございます、提督。 では」

 そう言って通信を切るクロノ。

 「リーゼさん達にも会えば良いじゃないか」
 「……お前、わかって言ってるだろ」
 「あ、ばれた?」
 「当たり前だ」
 「二人はクロノ君の師匠なのに、なんでそんなに苦手なのかな〜?」

 エイミィが意地悪くクロノに言う。

 「あのテンションについていけないんだ……。 特にロッテのな」

 そう言うと昔を思い出したらしく少しずつ沈んでいくクロノ。

 「ま、今話せる人とは皆話しちゃったし、もう昼だから食堂に行こうよ」
 「そうだね〜、お腹も空いちゃったし」
 「そうだな」

 なのはとユーノが帰った後、すぐにクロノ達は自分達の人脈をフルに使って手を回していた。
 レティ提督と、今話したグレアムの二人には、特に念を押してお願いをしておいたのだった。
 さらに、アースラの今までの功績も利用しているので、恐らくフェイトとアルフが罪に問われる事は無いだろう。


 "アースラ"艦内食堂 同日 時刻12:24


 「あれ? これって誰の食事?」

 が食事を終えて食器を返却口に持って行った時、端の方に置いてある二人分の食事に気付いて料理長に尋ねる。

 「ああ、それはあの子達の分さ。 早く持って行ってあげないといけないんだけど、手が離せなくってね」

 まさにおふくろと言った感じの女性が調理をしながら答える。
 は彼女の作る料理が大好きで、彼女もまた自分の作った料理を目一杯食べてくれるの事を息子の様に感じていた。

 「フェイトちゃんとアルフの分だね」
 「そうそう、その子達だよ」

 エイミィの答えに料理長が頷く。

 「じゃあ僕が持って行っとくね」
 「そりゃ助かるよ。 そうそう、これも一緒に持って行っておくれよ」
 「これは?」

 料理長が一つの金属製の鍵を手渡す。

 「艦長から手枷はもういいって言って渡されてたんだよ。 行ったら外してやってくれってね」
 「そうなんだ」
 「こけるなよ
 「子どもみたいに言うな!」

 なんとも子どもらしい言い合いをして、フェイトとアルフの食事を持って隔離室へ向かうだった。


 "アースラ"艦内隔離室 同日 時刻12:31


 「でも、こうしてずっと座ってるだけだと体がなまっちまうよ……」

 アルフがあまりにも退屈なので思わずぼやく。

 「ごめんね、アルフ……。 アルフまで入れられちゃって……」

 フェイトが申し訳なさそうに言う。

 「ち、違うんだよフェイト、そういうつもりで言ったんじゃなくて……」

 アルフがしどろもどろになってフェイトに説明しようとすると、隔離室の扉が機械音をたてて開いた。

 「ごめんね遅くなっちゃって。 昼食持って来たよ」

 が鉄格子の鍵を開け、扉を開いてその中に入る。

 「悪いね、
 「……ありがとう」
 「いや、こんな所に押し込んでるのは僕らなんだし……、とりあえず……っと」

 フェイトは急に近付いて来たに頬を赤したが、はそれに気付いた様子も無く、彼女の手枷を持ってそれを解く。

 「これで良し、……ん? フェイト、どうかした?」
 「……な、なんでもない……」

 は顔を赤らめているフェイトに気付いて声をかけ、フェイトは消え入るような声で答えた。

 「そう? じゃあ次はアルフだね」
 「ありがとね」
 「どういたしまして」

 そう言って二人は顔を見合わせて笑い、楽しそうに話をする。
 それを、横から少し羨ましそうに見つめるフェイト。

 (私もアルフみたいに笑えたらな……)

 長い間感情を押し殺して生きてきたせいか、なかなか上手く感情表現ができず、アルフが少し羨ましく見えたのだった。
 その視線に気付いたのか、がフェイトの方を向いて目が合ってしまい、なんとなく恥ずかしくなって俯くフェイト。

 「?」

 理由がさっぱりわからないは頭に無数の?マークを浮かべていた。

 『フェイト、なにかあったのかな?』
 『なにかってなんだい?』
 『いや、なんか顔赤いし、僕が見ると俯いちゃうし……』
 『ん〜、どうしたんだろうね……』

 念話で話す3歳児と2歳児(違

 ……話が少し脱線したが気にしないでおこう。

 「明日にはここを出られると思うから、もう少しだけ我慢してね」

 そう言って申し訳なさそうに言う

 「わかった」
 「……うん」
 「フェイト、ほんとにどうしたんだい?」
 「な、なんでもないよ!」
 「……そ、そう?」
 「?」
 《もまだまだお子様ね〜》
 《……またキャラが変わってるぞ

 顔を見合わせて首をかしげるとアルフをよそに、が嬉しそうに言っていた。

       :
       :
       :

 "アースラ"艦内管制室 5月20日 時刻7:56


 「あれ〜、なのはちゃんでないな〜」

 フェイトの処遇が決まり、その事を伝えるために特殊な細工を施しておいたなのはの携帯に通信を入れているのだが、
 肝心の彼女が電話に出ないのだった。

 「……この時間だと……まだ寝てるんじゃないの〜……」

 と、が物凄く眠たそうに言う。

 《お前も半分寝てるようなもんだろ》
 《ほんとに朝には弱いわね》
 「だってまだ眠いんだよ……」

 が抗議しようとした時、なのはがかなり慌てた様子で電話にでた。

 『はい! なのはですっ!』
 「おはよう、なのはちゃん」

 エイミィがクスクス笑いながら言う。

 「早速だが本題に入るよ。 フェイトの処遇が決まったんだ」
 『え? ほんと!?』
 「ああ、さっき正式に決まった。 フェイトの身柄は、これから本局に移動。 それから、事情聴取と裁判が行われる」
 『うん!』
 「フェイトは多分……いや、ほぼ確実に無罪になるよ。 大丈夫」
 「クロノ君あれからずーっと召還詰めしてたからね〜」
 「エイミィ! そういう余計な事は言わなくて良い!」
 「えへへ〜」
 『ありがとう! クロノ君!』
 「っ……コホン! 聴取と裁判、その他もろもろは結構時間がかかるんだ」
 「それで、その前にちょっと時間があるんだけど」
 『うん!』
 「フェイトがなのはに会いたいって言ってるんだ、良いよね?」
 『うんうん!』
 「それじゃ、あんまり時間が無いから、悪いんだけど今すぐ海鳴臨海公園に来てほしいんだ」
 『すぐ行く!』
 「じゃ、よろしくね」
 『うん!』
 「さて……と、それじゃ行こうかフェイト、アルフ」
 「うん、ありがとう……」

 が振り返って後ろにいたフェイトとアルフに伝える。


 海鳴市内海鳴臨海公園 同日 時刻8:19


 海からの潮風がとても心地良い。
 既にここに転移してから20分は経っているだろうが、ここからの眺めはいつまで見ていても飽きない気がする。

 (はじめてなのは達に出会ったのもここだったなぁ……)

 ふと思い出して、心の中で呟く

 「フェイトちゃ〜ん!」

 なのはの声がしたのはその時だった。


 「あんまり時間は無いんだが、しばらく話すと良い」
 「僕らは向こうにいるからね」
 「ありがとう!」
 「……ありがとう」

       :
       :
       :

 潮風に乗って二人の話し声が聞こえてくる。
 それを聞いて、アルフは先程からずっと泣きっぱなしで、ユーノが優しく撫でてやっている。

 「あんたんとこの子はさぁ……なのはは……ほんとに良い子だねぇ……フェイト……あんなに笑ってるよ……」
 「二人はほんと……優しいね……」
 「涙声になってる割に涙は出てないな」
 「え?」

 は驚く。
 てっきり泣いてるものだと思っていたが、涙が出ていなかった。

 「あ、あぁ……そうだね……」
 「?」
 「……ク、クロノこそ、こういう時くらい泣くべきだろ」
 「何言ってるんだよ」

 クロノが苦笑しながらなのはとフェイトに近づいて行く、もう時間だった。

 「時間だ……そろそろいいか?」

 も二人に近づく。

 (……涙が出ない……か……)

 内心呟いて、動揺を悟られないようなんとか平静を保とうとする。

 「……うん」
 「フェイトちゃん!」

 なのはが自分の髪をくくっていたピンクのリボンをフェイトに差し出す。

 「思い出にできるもの……こんなのしかないんだけど……」
 「じゃあ……私も」

 フェイトもそう言って、自分の髪をくくっていた黒いリボンを差し出す。

 「ありがとう……なのは」
 「うん……フェイトちゃん」
 「きっとまた……」
 「うん……きっとまた……」

 二人が互いのリボンを受け取る。
 アルフが預かっていたフェレット形態のユーノをなのはに返す。

 「ありがとう、アルフさん!」
 「あぁ……色々ありがとね、なのは、ユーノ」
 「それじゃ僕も……」
 「クロノ君もまたね」
 「ああ」
 「……」
 「君?」

 どうも上の空のを見てなのはが問いかける。

 「え? あ、あぁ、なのはもユーノも元気でね!」

 は精一杯の笑顔で言う。

 「うん!」

 それを見て安心したのか、なのはも元気良く答えた。


 フェイト、アルフ、クロノ、の足元に白い魔法陣が浮かび上がる。

 (ばいばい……またね……。 クロノ君……君……アルフさん……フェイトちゃん……!)

 フェイトが小さく手を振り、それを見てなのはが精一杯手を振る。

 そして光が周囲を包み込み、四人がその場から光と共に消えて行った。




 全ての始まりは、ロストロギアと呼ばれる超古代の遺産から
 それは数々の出会いと別れを生み、少年・少女達を導く
 出会いは始まり、そして、別れもまた始まり
 そうであると信じて、彼らはまた巡り合うだろう
 その身に宿す、強くて優しい光を放つ力と共に……



 『深淵の種 T』 完結





 あとがきらしきもの

 優「『深淵の種 T』これにて完結しましたー!」
 な「おめでと〜!」
 フェ「お、おめでとう……」
 ユ「おめでとう!」
 ア「おめでとー!」
 ク「よく終わったな」
 エ「そうだね〜」
 「初めての頃はどうなるかと思ってたけどね」
 ク「うお!? !!」
 「どうしたのさクロノ。 最後くらい出てもいいじゃないか」
 ク「いや、別に悪いとは言ってないが……」
 優「まぁ最後くらいはね!
   さてさて『深淵の種 T』どうだったでしょうか?
   謎の独り言でも書きましたが、この作品は僕の処女作だったので、
   至らないところもそれはもういーーーっぱいあったとは思いますが……。
   皆さんが少しでもこの夢小説を読んで楽しんでいただけたのならそれ以上の事はありません。
   まだまだU・V・Wと連載予定で、さらにキリ番にてリクエスト頂いたSSも書きます。
   どうか末永くお付き合い下さいね! それでは!」
 「最後の最後にやっとまともな事言ったね」
 優「……せっかくビシッと決めたと思ったのに!!」
 ク「……結局最後までこうなんだな」
 フェ「まぁ……いいんじゃないかな?」
 な「それでは、『深淵の種 U』をご期待下さいね!」


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