時の庭園最下層 同日 時刻7:17


 『お願い皆! 脱出急いで!』

 エイミィが必死で呼びかける中、庭園内で大爆発が起こる。
 その衝撃で岩が崩れ落ち、その瓦礫がフェイトとアルフの上に落ちてくる。

 「! フェイト! フェイト!!」

 アルフがそれに気付いてフェイトに必死で呼び掛けるが、彼女は反応せずただ母が消えていった虚数空間を見つけ続ける。

 「くっ!」

 瓦礫がフェイトとアルフのすぐ上まで迫った時、その間に飛び込んだが岩を粉々に砕く。

 「なにやってるんだ! 早く脱出しろ!」

 が声を荒げて二人に怒鳴る。

 「フェイトが動いてくれないんだよ!」

 アルフが涙を浮かべながら訴える。

 「フェイト! しっかりしろ!」

 がフェイトを無理矢理引き起こして怒鳴りつける。

 「母さん……母さんが……」

 フェイトは焦点の合わない目をしてうわ言の様に呟き続ける。

 「……っ!」

 周囲に乾いた音が響く。
 がフェイトの頬を思いっ切りひっぱたいていた。

 「……!」

 頬から走る強い痛みにフェイトが正気を取り戻す。
 そして、自分の目に真っ直ぐ向き合うの目を見返す。

 「こんな所で死んだら、なんにもならないだろっ!」

 がまた怒鳴る。
 その時、三人のすぐ傍に巨大な瓦礫が落ち、その衝撃で三人を支える床が割れてしまった。

 「うわぁ!」

 アルフを支える床が衝撃で吹き飛ばされてフェイトから離れて行く。

 「うっ……あぁ!」

 不安定になった床に衝撃が加わってフェイトが虚数空間に投げ出される。

 「フェイト! フェイトー!!」
 「くっ!」

 それを見たアルフが悲鳴をあげ、が身を乗り出してぎりぎりでフェイトの手を掴む。

 (くそ……力が入らない……)

 はなんとかフェイトを引き上げようとするが、疲労の溜まり切った体が言う事を聞かず、腕が鉛のように重く感じられた。

 「……」

 宙吊りの状態となったフェイトが、自分を必死で助けようとするを見て茫然とする。
 その時、天井が桜色の光条に吹き飛ばされ、そこからなのはとユーノが姿を現す。
 ユーノの腕に環状魔法陣が取り巻き、掌に魔力を集中しているのを確認し、はそれが転送魔法の準備という事を瞬時に理解した。

 「フェイトちゃん! 君!」

 なのはが叫ぶ。

 「っ……! なのは! 早くフェイトを!」

 の腕はもう限界が近づいていた。

 「うん! フェイトちゃん! 飛んで! こっちに!」

 なのはが手を伸ばしてフェイトに呼びかける。

 「……」

 フェイトは母とアリシアが落ちていった虚数空間へと視線を遣るが、目を閉じ、思いを断ち切るかのように飛翔してなのはの手を掴む。

 「……はぁ……はぁ……」

 それを確認したは、そのまま倒れ込んで意識を失ってしまった。

       :
       :
       :

 "アースラ"艦橋 同日 時刻7:26


 「庭園崩壊終了。 全て虚数空間に吸収されました」
 「次元震停止します、断層発生はありません」
 「了解」
 「第三船速で離脱、巡航航路に戻ります」


 "アースラ"艦内医務室 同日 同時刻


 エイミィがクロノの頭に包帯を巻き、ユーノもまた、なのはの脚に包帯を巻く。

 「あれ? フェイトちゃんは?」

 なのはが思い出した様に問いかける。

 「アルフと一緒に護送室。 彼女はこの事件の重要参考人だからね。 申し訳ないが、しばらく隔離になる」
 「そ、そんな! っ、イタタタタ……」

 なのはがクロノの答えに驚いて声を上げるが、その反動で脚の傷が痛む。

 「なのは! じっとして」

 ユーノがそれを見て注意し、なのはがしゅんとなる。

 「今回の事件は、一歩間違えれば次元断層さえ引き起こしかねなかった、重大な事件なんだ。
  時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ない。 それがわかるね?」
 「……うん……」

 クロノが少し強めに言い、なのはが小さく答える。

 「エイミィ、やり直し」
 「ちぇ〜」

 クロノの頭に巻いた包帯をなぜかリボンのようにしたエイミィにクロノがやり直させる。

 「君、大丈夫かな……?」

 同じ部屋で、今も眠り続けているの方を見てなのはが心配そうに言う。

 《少し休んでいるだけだ》
 《数日は目を覚まさないかもしれないけど、大丈夫よ》

 の傍に置いてあるが答える。

 「そうですか……良かった」

 なのはが安心する。
 そしてもう一つ、なのはには気がかりな事があった。

       :
       :
       :

 "アースラ"艦内会議室 5月13日 時刻11:02


 「今回の事件解決について、大きな功績があった者として、ここに略式ではありますが、その功績を称え、表彰致します」

 会議室にて協力者二名の表彰式が行われる中、あまりこういう雰囲気に慣れていないのか、なのはがガッチガチに緊張していた。

 『なのは、頑張って』

 それを見てつい笑ってしまいそうになったではあるが、なんとか我慢して念話で応援する。

 『う、うん……』
 「高町なのはさん、ユーノ・スクライア君、ありがとう」

 リンディがなのはとユーノに表彰状を手渡し、大きな拍手が起こった。


 クロノ、、なのは、ユーノの四人が通路を歩いていると、急になのはが足を止めてその場に立ち尽くす。

 「クロノ君、君……、フェイトちゃんは、これからどうなるの?」

 なのはが管理局に務める二人に問いかける。
 クロノとは一瞬顔を見合わせるが、すぐになのはの方に向きなおして答える。

 「事情があったと言ってもあの子……フェイト、それにアルフも次元干渉犯罪の一端を担っていたのは紛れもない事実だから……」

 の答えを聞いて、なのはは少し俯く。

 「重罪だからね、数百年以上の幽閉が普通なんだが……」
 「そんなっ!」

 クロノの口からあまりに重すぎる刑罰の話が出て、なのはが最後まで聞かずに大声を上げる。

 「なんだが!」

 それを見たクロノが語尾を強くしてそれを制し、なのはが驚く。

 「状況が特殊だし、彼女が自らの意思で、次元犯罪に加担していなかった事も、はっきりしている」
 「後は、お偉いさん達をどう言い包めるかなんだけど……まぁそこら辺には顔が利くから、心配しなくても大丈夫だよ」
 「君……」
 「何も知らされず、ただ母親の願いを叶える為に一生懸命なだけだった子を罪に問う程、時空管理局は、冷徹な集団じゃないから」
 「クロノ君って、もしかして凄く優しい?」

 なのはが思った事をストレートに言う。

 「なっ!?」

 クロノがそれを聞いて顔を真っ赤にする。

 「えへっ」
 「あはは……」

 それを見てなのはが笑い、ユーノは物凄く顔をしかめて苦笑いをする。

 「し、執務官として当然の発言だ! 私情は別に入ってない!」
 「なんでそんなに顔真っ赤にしてるんだよ、クロノ」
 「にゃはは、別に照れなくていいのに〜」

 なのは、ユーノ、が照れるクロノを見て笑う。

 「照れてない! なんだよ!? 笑うなよ!!」
 「可愛い〜♪」
 「変な奴だな〜クロノは」
 「お前にだけは言われたくない!」
 「どういう意味だ!!」
 《なにやってんだか……》
 《子どもらしくていいじゃない》

 クロノとがぎゃーぎゃー言い合うのを見て、なのはとユーノが笑い、
 が呆れ、が温かく見守っていた(様な気がする)

       :
       :
       :

 "アースラ"艦内食堂 同日 時刻12:06


 「次元震の余波は、もうすぐ治まるわ。 ここから、なのはさん達の世界になら、明日には戻れると思う」
 「良かった〜!」

 食堂のテーブルの一角でなのは、ユーノ、、リンディの四人が昼食をとっている。
 そのなかで、リンディの話を聞いたなのはが嬉しそうに言う。

 「ただ……ミッドチルダ方面の航路は、まだ空間が安定しないの。 しばらく時間がかかるみたい」
 「そうなんですか……」
 「数ヶ月か半年か……安全な航行ができるまで、それくらいはかかりそうね」
 「そうですか……その……まぁうちの部族は遺跡を探して流浪している人ばっかりですから、
  急いで帰る必要が無いと言えば無いんですが……。 でもその間、ここにずっとお世話になる訳にもいかないし……」

 リンディの話を聞いて、ユーノが困った様に答える。

 「別にアースラにいても良いと思うけどなぁ。 ユーノだって、結界魔導師としてならAAAクラスは確実にあるんだし」

 が三人の倍はあろうかという昼食を次々と口に放り込みながら言う。

 「いや……でも、僕は一応民間人だから……」
 「じゃあ、家にいればいいよ! 今まで通りに!」
 「なのは、いいの?」

 ユーノの様子を見て、元気に薦めるなのはに、ユーノは少し驚いた様子で聞き返す。

 「うん! ユーノ君さえ良ければ!」
 「じゃあ……その……えと……お世話になります」
 「うんっ!」

 ユーノが戸惑いつつもそれに答え、なのはが嬉しそうに頷く。
 その様子をリンディとは微笑ましく見守っていた……が、恐らくはリンディ程深く悟ってはいないだろうが。

 「あ、ユーノ、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
 「ん? どうしたの

 が思い出した様に問いかけ、ユーノが聞き返す。


 その時食堂の扉が開き、クロノとエイミィが入ってきた。

 「ったく、あんなに寝てるからだよ」
 「だってずっと徹夜だったんだよ……まだ眠い……」
 「あ……」

 眠たそうにあくびをするエイミィをよそに、クロノはなのは達を見つける。


 「僕を見つけたのって、確かスクライアって一族だったんだ。 それってユーノの部族だよね?」
 「あぁ、スクライアは僕の部族だけど……見つけたって?」
 「僕はロストロギアの中で眠ってたんだけど、覚えてる?」
 「眠ってた……って事は……じゃあ、あの時のが……」
 「そうそう、僕だったんだよ」
 「そうだったんだ……」
 「ふえ? 何の話?」
 「あぁ、なのはにはまだ言ってなかったね」
 「どうも♪」

 事情を飲み込めないなのはに昼食を持ったクロノが答え、エイミィが挨拶する。

 「は、三年前にとある遺跡で発掘されたカプセル型のロストロギアの中から発見されたんだ」
 「そ、そうなの?」
 「うん。 ロストロギアって言っても、危険な物じゃなかったらしいんだけどね」

 なのはがを見て尋ね、それに答える

 「それを見つけたのが、僕らスクライアの一族だったんだ」
 「で、ユーノはその時レイジングハートを持ってたんだよね?」
 「うん……カプセルに近づいたとき、一瞬だけレイジングハートが光ったように見えたんだけど……」
 「レイジングハートが?」

 なのはが、今は赤い宝石の姿をしている愛杖を見て尋ねる。

 「でも、本局で調べても異常も関連性も全く無し。 ってのが最終結果だったんだよ」

 エイミィが答える。

 「それでなのは。 悪いんだけど、レイジングハートをちょっと見せてもらって良いかな?」

 がなのはに問いかける。

 「うん、もちろん!」

 なのはがにレイジングハートを手渡す。

 「……」

 少しの間、沈黙が続く。

 「……うーん……」
 《どうだ? 
 《何か思い出した?》

 唸り声をあげたに、が問いかける。

 「……特になにも……」

 の掌の上にあるレイジングハートはなんの反応も示さず、ただ美しい光沢を放っていた。

 《そうか……》
 《そう上手くはいかないわね》
 「そうだね。 ありがとうなのは」
 「う、うん……」

 がなのはにレイジングハートを返す。

 「う〜ん……やっぱりあの時レイジングハートが光った様に見えたのは気のせいだったのかな……」
 「そうだな……僕も一瞬の事だったからなんとも言えないが」

 ユーノ、クロノが腕を組んで考え込む。

 「あ、そんなに気にしなくていいから。 別に困ってないしね」

 それを見て、がさらっと言い放つ。

 「困ってないって……お前なぁ……」

 クロノが呆れる。
 どうしてはこう……もう少し自分の事に気を配れないのだろうか。
 まぁ、そんな事を考えてるクロノも自身の事を無視する事は良くあるのだが。

 「その内急に思い出すかもしれないしさ。 ごめんね食事中に、早く食べちゃおっか」

 そう言ってけらけら笑い、昼食を食べ始める

 「やれやれ……。 まぁ……なのはには多分、アースラでの最後の食事になるだろうし……」
 「うん……」
 「お別れが寂しいなら、素直にそう言えば良いのになぁ。 クロノ君てば、照れ屋さん♪」
 「ほんとにすぐ照れるんだからね〜、クロノは」

 エイミィとが意地悪くクロノを見る。

 「なっなにを……」
 「なのはちゃん、ここにはいつでも遊びに来ていいんだからね〜♪」
 「そうそう、大歓迎だよ」
 「はい! ありがとうございます」
 「エ、エイミィ! ! アースラは遊び場じゃないんだぞ!」
 「まぁまぁいいじゃない。 どうせ巡航任務中は暇を持て余してるんだし」
 「か、艦長まで!」
 「さっすがリンディさん、話がわかるな〜!」
 「!」
 「にゃはは」

 その光景を見て、思わず頬が緩むなのはだった。

       :
       :
       :

 "アースラ"艦内転送ポート 5月14日 時刻7:00


 「それじゃ、今回は本当にありがとう」
 「協力に感謝する」

 クロノとなのはが握手をする。

 「なのはもユーノも、また遊びに来てね」
 「「 うん! 」」

 なのは、ユーノと握手をする

 「フェイトの処遇は決まり次第連絡する」
 「心配しなくても、僕らがあの手この手で良い様にもっていくから大丈夫だよ」

 クロノが優しく微笑み、は親指を立てて笑ってみせる。

 「うん、ありがとう」
 「ユーノ君も、帰りたくなったら連絡してね。 ゲートを使わせてあげる」
 「はい、ありがとうございます」
 「……じゃ、そろそろいいかな?」
 「「 はい! 」」

 エイミィが少し悲しそうに問いかけ、なのはとユーノが返事をする。

 「それじゃ……」
 「元気でね」
 「うん、またね、クロノ君、君、エイミィさん、リンディさん!」

 四人が手を振ってなのはとユーノを見送り、二人が光の中へと消えていった。

 「……さて、これから忙しくなるわね」
 「そうですね〜」
 「ま、なんとかしないとね」
 「ああ、そうだな」




 あとがきらしきもの

 優「遂に深淵の種Tも最終話を迎えましたよーーー!!」
 ク「結構長かったな」
 エ「でも、ほんとによくここまでこれたよねー」
 優「これも一重にこんなサイトに来て下さってる皆さんのお陰です!」
 ク「まぁ、後編もしっかり書いてくれ」
 優「もちろん! 頑張りますよ! 内容はどうあれ!!」
 ク「それじゃだめだろ!?」
 エ「とにかく! 後編をお楽しみにね!」


 BACK  NEXT

 『深淵の種 T』へ戻る