第二話 風再び・・・



「なんだよこれ……」
『魔力の反応が増えた……? どうなっている?』
「俺がわかるわけないだろ?」


二人は困惑した。
当初一つしか無かった魔力反応が前触れもなく二つに増えたのだ。
それは魔道技術が存在しないこの世界にとっては異分子が増えたことを意味する。


『管理局員が到着したのか?』
「いや、転移魔法の反応はなかった。本当に何もないところから反応が出てきていた」
『私や君が見逃していた可能性は?』
「あると思うかい?」


冷静さを失っていた当初ならともかく、いまは二人とも冷静そのものだ。
ハルピュイアがフォルカのことを『君』と呼んでいる時はミスなどありえない。


『……愚問だったな。だがそうなると原因は迷宮入りだな』
「……いや、一つだけ可能性に心当たりがある」
『何?』


フォルカは少し抜けてはいるがそれは通常の話。
もとより頭脳という点では彼は常人の域をゆうに越えている。
普段の姿がそれを想像させないのはこの才能の裏返しかもしれない。


『馬鹿な、そんなことありえるのか?』
「ああ、十分にあり得る」
『……お前、なにがわかった?』


口ごもる主に苛立ちを覚えてきたのかハルピュイアの口調と呼び方が変化する。
それを汲みとったのかフォルカが口をひらく。


「……新たにゼロの状態から魔道師が誕生した場合だ」


          ◆


現地に二人が到着したとき、二つの魔力反応は共に消え、残されていたのは大きな衝撃が襲ったとみられる大きな穴だけだった。


「やっぱり遅かったか……」
『……君の推測が正しいとすれば、新しく誕生した魔道師とやらはかなりの才能のようだな。まだ慣れてないというのにこれほどの出来事を収拾するとは』
「もしくは魔力を持たない誰かのアドバイスを受けていたか……どっちにしろ普通じゃない」


魔力を持たないものが魔術について詳しいということは稀だ。
魔道技術がないこの世界ならなおさら。


「ん……?」
『どうやらここに長居するのは色々とまずいようだな』


聞こえてきたのはサイレンの音。
結界なしでこれだけの出来事が起きたのだ、当然と言えば当然だろう。


「……もしかしてこのままここにいると俺って……」
『間違いなく、タ・イ・ホ、だろうな』
「……」


フォルカの背筋に大量の冷や汗が流れる。


「こっちに来て3日で警察行きなんてゴメンだぁぁ!!」


フォルカは自宅に向かって死ぬ気で走り出した。


『いい社会勉強になるとは思うがな』
「今はシャレにならんからそういう冗談はやめてくれぇぇぇ!!」


力走のかいもあって5分後には家についた。
そしてそのまま深い眠りについたとか……。


          ◆


その事件の翌朝、フォルカはある場所へ向かった。
それは私立聖祥大附属小学校、目的は編入手続きと学力試験である。
きちんとした手順を踏めば編入は可能なのだが、入学後の参考にするために必須なのだとか。


『調子はどうだ、フォルカ?』
「(試験中なんだから話しかけちゃダメだって!)」
『ふっ、君は無駄なところがマジメだな。別にかまわないだろう、念話なのだから誰にもきこえないし、答えを言うわけでもなし』
「(いつもと…というより説教している時と言っていること違くないか?)」


ハルピュイアがいつもする説教はいかに人として真っ当に生きるかということ(もちろんそれ以外にも余計なことを小一時間以上話しているが…)だったため、やはり不満はあるようだ。


『今なにを考えていた?』
「(い、いやなにも……)」
『まあいい、自分から言っておいてなんだがこんなお喋りしていていいのか?』


テストが始まり大分時間がたった。
だがかなりの時間をハルピュイアとのこんなやりとりに費やしている。
普通ならまだ終わっているかどうかもあやしい。


「(ああ、いいのいいの。どうせ見直しも終わって暇だから)」
『……お前には愚問だったな』


その点フォルカはすべての問題に解答し終えて見直しも終わっているという。


「(おもったより簡単で助かったよ。)」
『……人前でそれは言うなよ、友人が遠のく』


試験問題は小学三年生が学ぶものとしてはかなり高位の問題ばかりであり、それを簡単などと人前で言おうものなら、それは単なる嫌味である。

そんな話を続けるうちにテストの終了を告げるチャイムが鳴った。


          ◆


一方、3年生のとあるクラスでは早くも噂が流れていた。


「知ってるか? なんか近々転校生が来るらしいぜ」
「え、ホント? 男? 女?」

「男の子らしいよ。見た感じ結構カッコイイみたい」
「えーホント?」


どこから入手してきたのか、ガセも交えたその情報でクラスは持ちきりだった。


「でもホントのところどうなのかしら? この時期に転校生っていうのも珍しいわよね?」
「職員室に見たことない男の子が入っていったって言っていたから間違いはないとおもうけど」


そしてこの二人、アリサ・バニングスと月村すずかも例外ではなかった。
二人はこれから仲間になるであろう男の子の想像をめぐらす。


「意外とこれぞガリ勉!みたいな見た目だったりして」
「アリサちゃん……あまり変な想像はしない方が……」
「もしかしたら超体育会系で、「僕はプロ野球界の星になる!」みたいなこと言ったりして」
「ま……まあ、なんにしろ仲良くなれるといいね」
「そーね。何にせよ、あまり酷くない見た目は期待したいわ」
「あは……あはは……」


笑いながらかなりひどい想像をしていた。
最早、すずかもただ苦笑するしかなかった。
当の本人はしばらくの間クシャミが止まらなかったとか……。


          ◆


「ふぅ〜、なんとか終わった〜」


フォルカは学校からの帰路についていた。
実際に学校を出たのは昼を少しまわったころだが、その後に昼飯を済ませ、商店街で今後必要となる雑貨や今日の晩飯の材料などを買いそろえているうちに夕方になってしまった。


『フォルカ、昨日のことだが……』
「……」


昨日のこと、とはやはりあの魔力反応のことだろう。
あの後、ニュースや新聞を見る限りでは何かの事故としてかたづけられたようだが、自分たちはそうはいかない。
あきらかな異変を察知していたのだから。


『今度同じようなことがあったらどうするつもりだ? また後手にまわっていては何もできないだろう』
「だろうね」
『管理局が調べるまで待つつもりか?』
「冗談」


いつもとは違う少し強い口調で否定する。


「あんな連中をあてになんか出来るか」
『……やはりまだ許していないか』
「あたりまえだ。あいつらのせいで……」
『言うな、それこそマスター……前マスターの意志に反する』


二人は同じ過去の出来事を思い返す。
フォルカは両親を、ハルピュイアは己がマスターを失った忌むべき事件を。


「……ハルピュイア、デバイスユニットの調整をしておいてくれ」


しばらくの沈黙の後、フォルカは告げた。


『戦うつもりなのか?』


あの事件以来つかっていなかったハルピュイアのデバイスとしての機能を調整するということ、それは自分自身がその力を使う事を意味している。
事件同様、忌み嫌っていたはずの魔法の力を。


『その覚悟が君にあるのか?』
「もう二度と……」





「大切なものを失わないために……」



第三話 「そよ風と共に」へ・・・





レ「はい、恒例(になる予定の)あとがきコーナ〜。今回のゲストは前回に引き続いての登場のハルピュイアさんと、今回初登場のアリサさんです〜。わ〜パチパチ〜」
ハ「……」
ア「……」
レ「あ……あれ?なんかまたテンションが低いような……?」
ハ「おい、なにか時間軸がおかしくないか?」
ア「なんで私の出番これだけなの?」
レ「え? え? いや〜……」
ハ「原作との時間軸があってないのではないか?」
ア「仮にも原作キャラの初登場よ?何あの扱い!?」
レ「え〜と……前者はフィクションというわけで時間軸とかはあまり……後者は今後があるから……」
ハ「……10回ほど殺すか。」
ア「可愛そうよ。8回ぐらいにしときましょ」
レ「え、ちょ……ギャー!(ブチッ」


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