――時は進んで一年後 時空管理局所属巡航L級8番艦次元空間航行艦船"アースラ"艦橋 (管理局内)時刻13:12 「それにしても暇だな〜……」 急にそんな事を呟いたのは、時空管理局嘱託魔導師の肩書きを持つ少年、・。 《確かにな》 の傍を待機状態のままふわふわと浮いている彼のデバイス、も彼の意見に同意する。 《二人とも、そんな事言うものじゃないわ》 こちらも待機状態で浮いているが二人(?)に注意する。 「の言う通りだ。僕達にやる事がないなら、それだけ平和って事だろ」 付け加えるように口を開いたのは、12歳で執務官の肩書きを持つ少年、クロノ・ハラオウン。 「でも、最近はほんっとになんにも起こりませんよね。艦長、お茶です」 艦橋に入り、アースラの艦長にお茶を出したのは、14歳でアースラの実質No.3、エイミィ・リミエッタ。 「ありがとう、エイミィ」 そう言ってお茶を受け取り、普通なら一緒に持ってこさせないであろう砂糖を大さじで三杯程入れた超甘党、アースラ艦長のリンディ・ハラオウン提督。 もしお茶の通常の飲み方を知っている者がこの光景を見たら驚愕の他にないだろう。 「ま、私達のパトロール範囲で何も起こっていないだけだけど、のんびりできていいわね」 次元航行艦船には、それぞれの艦に監視をする次元世界が定められている。 その範囲は次元を超えるだけあって相当なものだが、アースラの監視範囲に限ってはここ三ヶ月間目立った事件が全く起きていなかった。 「でも、それを理由に他の艦から苦情が来るのも困ります」 顔をしかめて口を開いたのはランディだった。 AAA+の魔導師を二人も乗せているこの艦に、他の艦から「一人分けろ」と何度も催促されているのが現状で、 事件より他の艦に上手く言って諦めさせるのが今のアースラスタッフの仕事となってしまっているのだった。 「それはそうだけど、二人は他の艦に行く気なんてないんでしょ?」 エイミィが自分の席に座ってクロノとに問いかける。 「僕はごめんだ」 「僕も他の艦に行くのは嫌だな」 これである。 まぁ、これからも二人の気が変わる事などないだろう。 「二人はアースラの切り札だからね。いなくなってもらっちゃこっちが困るよ」 AAA+ランクというのは、優秀な魔導師が多い管理局でもかなり稀有な存在である。 その戦闘能力は、一人で並みの武装局員一個中隊以上は確実。 それが二人も同じ艦に乗っている事こそ珍しく、アースラがここ九ヶ月間高い実績を上げ続けてきたのも、 この二人の働きによるところが多いのは誰の目から見ても明白であった。 「中継ポートからデータが送られてきました」 アレックスが連絡が来たことを伝える。 「すぐに回して」 「了解」 リンディがすぐに対応させる。 「どうせまた同じ事なんじゃ……もういい加減諦めればいいのに」 が悪態をつく。 一日の大半が他の艦からの苦情やらなんやらばかりなのだから仕方がないと言えば仕方ないが。 艦長席にディスプレイが映し出され、そこに送られてきたデータが表示される。 それに目を通しているリンディの表情がみるみる険しくなっていく。 「艦長?」 クロノが異変に気づいて声をかける。 「緊急事態よ」 艦橋に緊張が走る。 「先程、第22管理外世界において強大な魔力反応が確認された為、捜索班が現場に向かったけど消息を絶ったらしいわ。 直ちに現場へ向かいます、アースラは最大船速で第22管理外世界へ、クロノと君はいつでもいけるよう準備を」 「「「「「 了解っ! 」」」」」 第22管理外世界"ソレウト"衛星軌道上 (管理局内)時刻16:32 「少し遠かったですね」 エイミィが素直に感想を述べる。 「ええ、捜索員達は無事かしら……。でも……」 それにリンディが答える。 要請を受けてから三時間かけて到着したアースラからは、既にクロノと、捜査スタッフを現地に飛ばしている。 あの二人がいれば万一の事はないだろうが、リンディは妙な不安にかられていた。 「艦長?」 途中で黙り込んでしまったリンディに、エイミィは声をかける。 「……ごめんなさい、なんでもないわ」 「そうですか……あ、現地から連絡です」 艦橋に音声が流れる。 『アースラ、聞こえますか?』 クロノの声だ。 「ええ、聞こえるわ」 『これから消息を絶った捜索班の捜索と魔力反応の原因を調べてきます。 何か新しい情報は入りましたか?』 「あれから何も連絡は入っていないわ。私達だけでなんとかするしかないわね」 『了解です、では』 「ええ、気をつけてね」 通信が切れ、また規則的な電子音だけが艦橋を支配する。 「……ま、皆に任せるしかないわね」 そう呟いて、全員が無事に戻って来る事を願うリンディだった。 「それにしても、岩ばっかりだね……なんか淋しい所だな」 既に現場に着き、現在はクロノが探索魔法で捜索員達の足跡を辿っているところだったが、 これといってやる事がないはとりあえず感じた事を口に出していた。 やる事がないと言っても、周囲への警戒を怠ってはいないが。 ギャレット達捜査スタッフも、警戒を怠っている様子は微塵も見受けられない。 《この世界は文明レベルが0だし、元々岩ばかりの所らしいから仕方ないわ》 エイミィがに説明する。 《という事は、原生生物に襲われたか……それじゃあ強大な魔力反応ってのが説明できないな》 「……ここから……北東……そんなに遠くない所に魔力反応がある」 クロノが探索魔法で得た情報を伝える。 「そっか、じゃあ行こう」 「ああ」 短いやり取りを終え、高速で魔力反応のあった場所に向かう。 「これは・……」 は思わず声を上げる。 魔力反応のあった場所には捜索員達が傷ついて倒れていた。 どうやら彼らは交代で位置を特定させる為に微量の魔力を放出し続けていたようだ。 「大丈夫か?!」 クロノが一人を抱き起こして呼びかける。 「う……」 どうやら衰弱し切っている様だ。 「くそっ、一体何が……」 クロノが憤慨する。 「見た事もない……化け物に……襲われて……」 「化け物?」 が聞き返す。 「魔力を……奪われた……」 「そいつらはどこへ行ったんですか?」 行方を尋ねる。 その声には明らかに怒りが混じっていた。 「ここから北へ……飛んで行った……」 「……ギャレット達は彼らをすぐにアースラへ、僕とは北へ向かう」 「了解!」 「行くよ、」 「わかった」 『クロノ、化け物ってなんだと思う?』 北へ飛んでいる最中に、がクロノに念話を送る。 『恐らくこの星の原生生物だろうけど、15人の捜索員をあそこまで痛めつけたんだ、気をつけないと』 『そうだね……』 《何か来るぞ!》 が警告する。 「魔力弾!?」 前方から高速で魔力弾が飛んでくる、その数約60発。 二人はそれを回避して戦闘態勢をとる。 「誘導じゃない、直射弾か」 「化け物ってあれだね」 捜査員が化け物と呼んだモノは、翼の生えた猛獣といった感じの生き物だった。 しかし、目は狂気で狂っている様に見え、口からは涎をダラダラと垂れ流している。 《数は20、魔力ランクは……A+といったところね》 が敵の能力を分析する。 「A+が20匹……手を抜いてる暇はないってことか」 クロノが殺傷設定に切り替える。 「……一気に行くよ、、!」 《ええ》 《ああ》 二人が左右に分かれる。 それに反応して、化け物達も半分づつに分かれて二人を追う。 《知能もそれなりにあるようだな》 「だね、でもその程度じゃ!」 クロノと素早く念話が繋がる程度の距離に離れ、反転し攻撃を開始する。 化け物10匹は狂ったように唸り声をあげながらに襲い掛かる。 《Edge Move》 「はあああああああ!!」 まず先頭の化け物の正面に一瞬で移動し、渾身の斬撃を放つ。 斬りかかられた化け物はあまりの速さに防御も回避もできず、一刀両断にされてしまった。 だが、残りの9匹はそれを気にする事無く次々とに襲い掛かる。 「仲間が一匹殺られたのに、こいつら!」 《!》 が警告する。 「わかってる! 一気に片付けるよ!」 《Stream Blade!》 正面から襲ってくる化け物達を流れるように攻撃していく。 ある化け物は斬り裂かれ、ある化け物は急所を貫かれて、断末魔の叫びをあげながら地面に落下していく。 結局、化け物達はに触れる事もできずにあっけなく倒されてしまった。 A+とAAA+の差は、数値上ではあまり大した事が無いように見えるが、実際にはとんでもなく大きい。 『クロノ、こっちは片付いたよ、そっちは?』 が念話でクロノに話しかける。 しかし、返事は返ってこず、沈黙が続いた。 『クロノ? 聞こえてる?』 『…………』 『クロノ!?』 クロノの消え入る様な声が届き、は驚く。 『……こい……つは……つよ……い……』 『クロノ! どうしたんだよ! クロノ!!』 それから、いくら呼びかけても返事が返ってこなくなった。 「どうしちゃったんだよ!」 《とにかくあの子の所へ急ぎましょう!》 「わかってる!」 《急ぐぞ!》 デバイス二人の力を借りて、クロノの所へ急ぐ。 嫌な予感が次々と頭を横切り、それを振り払い続けながら、日が沈んで闇に染まった空を突き進んでいった。 あとがきらしきもの 優「第六話前編終了です! ツッコミ所満載でしょうけどそこは笑顔でスルーしてくださいね!」 ク「おいちょっと待て!」 優「なにかなクロノ君、急いでるんだけど」 ク「なんで急に一年とか経ってるんだ! それになんか僕死に掛けてるぞ!?」 優「いや、だからスルーしてって言ったじゃないスか」 ク「スルーできるかー!」 優「まぁなんとかなるって! それじゃ!」 ク「こんなのばっかりだああああ」 エ「苦労性だね〜……」 BACK NEXT 『深淵の種 T』へ戻る |