第22管理外世界"ソレウト" (管理局内)時刻17:02


(これぐらい離れれば大丈夫か)

 二手に分かれた後、クロノもと素早く念話ができる程度の距離に離れ、
 反転して追ってきた10匹の化け物に攻撃を仕掛ける。

「一気に片付ける!」
《Stinger Snipe》

 彼のストレージデバイス、S2Uから魔力刃が放たれ、まず5匹を一瞬で仕留める。

「スナイプショット!」

 残りも高速且つ精密に誘導された魔力刃によって、こちらもまたあっけなく全滅させてしまった。

「よし、これで片付い……?」

 前方から強大な魔力を感じ取り、クロノが身構えた時、漆黒の闇に包まれた空から強力な魔力砲撃が放たれた。

「なっ!?」

 その弾速は脅威的で、クロノは回避できずにラウンドシールドを展開してそれを防ぐ。
 しかし、弾速だけではなく破壊力も圧倒的で、シールドが破壊され、その衝撃でクロノは吹き飛ばされて岩に叩きつけられた。

「うわっ!」

 背中に激痛が走り、更に魔力砲撃によって受けたダメージも重なって意識が昏倒する。
 そして、岩から零れ落ちそうになったクロノを砲撃を放った生物の巨大な脚がもう一度岩に叩きつける。

「〜〜〜っ!!」

 クロノは声にならない叫びをあげる。
 巨大な脚にかけられる重量と力はバリアジャケットを通り越して彼の臓器を圧迫し、激痛を伴わせ、口から真っ赤な血を吐き出させる。

 巨大な脚の持ち主は、先程の化け物と形状は良く似ているが大きさはその比ではなかった。
 先程の化け物の大きさは自分より一回り大きいくらいであったが、こいつはそれの更に数倍以上の大きさで、
 真っ赤な目は狂気と殺気で漆黒の闇の中を不気味に輝いており、背中には大きな4枚の翼が生えている。
 更に、胴体の部分には青白く光る丸い球体の様な物が多数あり、中には先程の化け物が眠っている様に見える。

(……こいつは……さっきの奴らの母体……なのか……)

 気を失いかけた時、から念話が繋る。

『クロノ、こっちは片付いたよ、そっちは?』

 激痛と、先程から魔力を除々に吸い取られているようで、思考が麻痺し始めており返事ができない。

『クロノ? 聞こえてる?』
『…………』

 なんとか返事を返すクロノ。

『クロノ!?』

 明らかに驚いた声が返ってくるのを、遠い所から聞いたような感覚を覚えたクロノはなんとか状況を説明しようとする。

『……こい……つは……つよ……い……』

 しかし、既に魔力の大半を奪われ、傷ついたクロノにそんな余裕は無く、遂に気を失ってしまった。



「何か光ってる……!」

 できうる限りの速度を出して、クロノが飛んでいった方向に飛行しているは、
 その視力で遠くに何かが光っているのを確認した。
 それは二つの赤と、不気味な複数の青白い光を放っていた。

《! なんだ、この魔力は……!》

 が異常な魔力を感じ取って警告する。

「魔力が収束してる……? っ!?」
! 避けて!!》 

 赤と青の不気味な光を放っている物体から強力な砲撃魔法が放たれ、めがけて一直線に飛んでくる。

「くっ……!」

 なんとかギリギリで避ける事に成功し、目標を外れた魔力の塊は岩山に激突し、それを粉々に吹き飛ばしていた。

《かすっただけでこれか……》

 避けたはいいが、のバリアジャケットには無数の傷が入っていた。

 攻撃が外れたのを感知したらしい物体は巨大な翼を広げてこちらに向かって飛翔してくる。

「こっちに来る……」
《あの生物……なんて大きさだ……》

 翼を広げた生物は、その巨体から不気味な赤と青の光を放ちながら、漆黒の闇の中を悠然と進む。
 それはまるで、この世界に於ける覇者は自分だと言わんばかりに。

《魔力量だけで……S+!?》
「じゃあ……クロノはあいつに……っ!? クロノ!!」

 はあの化け物の脚に鷲掴みにされたクロノを発見する。
 彼はぐったりとしており、気を失っているらしい。

「っ……よくも……」

 は自分の中でふつふつと沸き始めた怒りに身を震わせ、化け物を睨みつける。

《結界が……弱まってる……》

 が異変に気付く。

《まずい、このままだと……》

 も危険を察知するが、は化け物に向かって突進していた。

「クロノを離せぇっ!!」
《待て、!》
「はあああああああ!!」

 の忠告も聞かず、猛然と突進する
 それを察知し、化け物が口から無数の魔力弾を放ってを攻撃する。

《くっ……Stream Blade!》

 魔力弾が雨のように降ってくる中、それを叩き落しながら突き進む
 しかし、あまりにも数が多すぎた為に直撃を受け、爆音を立てて地面に落下する。


「く……そ……」

 全身に激痛が走り、立つ事もままならない。

!》
《しっかりしろ!》

 デバイス達が心配するが、彼らもダメージを受けてヒビが入っている。

「うわああああああ」

 クロノの絶叫が周囲にこだまして響き渡る。
 化け物は魔力を吸い尽くし、用済みと判断したのか、彼を握り潰そうとしている。
 その顔には歪んだ笑みが浮かんでいる様に見えた。

「……やめろ……やめろおおおおお!!」

 の周囲に無色の魔法陣が浮かび上がり、強烈な閃光を放つ。

! 落ち着いて! このままじゃ……》
《だめだ、もう結界が……!》

 の周囲を眩い光が包み込み、強力な魔力が放出される。
 それに目を奪われていた化け物は、次第に光が鬱陶しく感じたのか、それに向けて砲撃魔法を放とうと口に魔力を収束させる。


「グワアアアアアアアアアアアア!!」

 直後、化け物は激痛に耐えかねて空が震える程の咆哮をあげる。
 クロノを鷲掴みにしていた脚がいつの間にかで斬り落とされていた。
 化け物は周囲を見渡して自分の脚を斬り落としたモノを探す。
 その目には狂気と殺気に加えて怒りが混じり、更に狂っているように見えた。

「クロノ、大丈夫か?」

 声が聞こえ、その方に振り向く。
 そして探していたモノを見つけた化け物は口にありったけの魔力を収束させる。


「少しここで休んでろ、いいな?」

 クロノは朦朧とした意識の中で自分を覗き込んでいる人物を見る。
 その人物は、彼を始めて見た時の、青年の姿をしたであった。

「…………?」

 声色も口調も自分の知っているのものではなかった為、ちゃんと聞こうと思ったが体が言う事を聞かない。
 魔力が尽きてしまい、更に身体へのダメージも相当なものになっていた為、また気を失ってしまった。


「ガアアアアアアアアア!!」

 化け物は特大の咆哮をあげ、とクロノに向かって砲撃魔法を放つ。
 しかし、は全く慌てた様子も無く右手で八角星の形状をしたシールドを展開してそれを防ぐ。
 魔力砲撃とシールドが接触して強烈な衝撃波が発生し、大気を揺るがす。
 先程、岩山を吹き飛ばした時以上の破壊力の砲撃を、は難なく受け切っていた。

「……覚悟はできてるんだろうな」

 怒りと殺気を剥き出しにして、は化け物を睨みつける。
 それを目の当たりにして化け物は怯むが、本能のままに咆哮を上げながらに襲い掛かる。
 に魔力を集中、それを急速に回転させていく。
 真っ赤に染まった魔法陣が足元に浮かび上がり、の本体である宝石も真紅に変色していく。
 そしてに炎が纏い、化け物に狙いを定める。

「渦巻け、灼熱の業火」
《Spiral Flare》

 から闇夜を照らす超高温の炎が撃ち出され、化け物を襲う。
 化け物は咄嗟にバリアを展開するがその破壊力に耐え切れずにバリアを破られ、炎に包まれる。

「ギアアアアアアアアアア!!」

 化け物は灼熱の業火で全身を焼かれ、断末魔の叫びをあげ爆音を立てて地面に落下する。

 それを、見る者が凍りつくような冷酷な眼差しで眺めていたであったが、すぐにクロノの元に行き、
 転送魔法を使ってアースラへと戻った。


 その場には、巨大な化け物の焼け焦げた死骸だけが残る事となった。




あとがきらきしもの

優「はい!第六話後編も終了です! イエーイ!」
ク「……」
優「なんかクロノ君がS2U構えて殺気だってるんですけど?」
ク「スティンガーブレイド」
優「ちょちょちょちょちょちょ」
ク「エクスキューション……」
優「まてまてまてまてまてまて」
ク「シフトーーーーーーー!!」
優「ぎゃああああああああああ」
エ「はい、怪我人一人追加ねー」


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