"アースラ"艦内転送ポート 同日 時刻18:45 『ユーノ君、ユーノ君……ここって一体……』 白衣の少女がかなり怯えた様子で辺りをキョロキョロしつつ、ユーノと呼んだフェレットに念話で問いかける。 その様子を見て、笑いながら手招きすると無言で先を行くクロノを見て、少女とユーノがそれについて行く。 『時空管理局の、次元航行船の中だね……。えと、簡単に言うと、いくつもある次元世界を自由に移動する、その為の船』 『あ、あんま簡単じゃないかも……』 『えぇっとね……、なのはが暮らしてる世界の他にもいくつもの世界があって、僕達の世界もその一つで……、 その狭間を渡るのがこの船で、それぞれの世界に干渉し合う様な出来事を管理してるのが、彼ら時空管理局なの』 『そうなんだ……』 転送室を出る扉が機械音をたてて開く。 そして、先程まで無言でいたクロノが笑ってなのはとユーノの方に振り返る。 「ああ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは、解除して平気だよ」 「そうだね、ここなら誰かに攻撃される事も無いし、かなり安全な場所だから」 もそれに便乗する。 「あ……そうなんですか、それじゃ」 そう言って、ようやく微笑んだなのはがバリアジャケットとデバイスを解除する。 「君も、元の姿に戻ってもいいんじゃないのか?」 「ここなら部外者に見られる事もないから大丈夫だよ」 「ああ、そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」 「?」 なのはは何の事だかわからずユーノを見る。 すると、ユーノの周りが光りだして彼が人間の姿に変わっていく。 「うひっ?! ぁ!?」 なんとも情けない声を出して、体を仰け反らしてまで驚くなのは。 「はぁ。なのはにこの姿見せるのは、久しぶりになるのかな?」 そう言ってなのはの方を見ると、彼女はユーノを指差してとんでもなく動揺していた。 「は、へ? へぇぇへっ? ふえええええええええええええええっ!?」 アースラが揺れるかと思われる程の大音量でなのはが叫ぶ。 「な、なのは?」 ユーノが目をパチクリさせて今も動揺し続けている少女を見つめる。 「ユーノ君ってユーノ君って……うぅ……その、なに!? えぇっ……だ、だって、嘘!? ふええええええええっ!!」 頭をぶんぶん振り回して、未だにパニック真っ只中の少女の髪がふりふり揺れる。 「……君達の間で、何か見解の相違でも……?」 先程まであっけにとられていたクロノが問いかける。 に至ってはもうなにがなにやらで、頭に無数の?マークを浮かべて目を点にしている。 「えぇと……な、なのは……。僕達が最初に出会った時って、僕はこの姿じゃ……?」 「違う違う! さ、最初っからフェレットだったよぅ!」 そう言ってユーノは脳細胞をフル稼働させて過去の事を思い出そうとする。 その間約三秒、直後、チーンという音が聞こえた様な気がしたが、恐らく気のせいだろう。 「あーーーー!! あぁぁ、そそそそうだそうだ、ごめんごめん……。こ、この姿見せてなかった・・・」 「だよね! そうだよね?! ビックリしたぁ〜……」 「……ぷっ、アハハハハハハハハハハハッ」 直後、先程まで目を点にしていたが大声で笑い出す。 どうやら相当おかしかったらしく、腹を抱え壁に手をついて笑い続けている。 それを見たなのはとユーノはみるみる赤くなっていく。 「あぁ……コホン、その……ちょっといいか?」 「「 ? 」」 「君達の事情は良く知らないが、艦長を待たせているので出来れば早めに話を聞きたいんだが」 少し怒った様子でクロノが二人に話す。 「あ……ぁ、はい……」 「すみません……」 「では……」 そこで止まったクロノは未だに笑い続けているの頭をS2Uで小突く。 「いてっ、何すんだクロノ!」 「いくらなんでも笑い過ぎだ、艦長を待たせてるんだぞ」 「〜〜〜っ、わかったよ」 そう言って渋々了承する。 「では、こちらへ」 「クロノの奴〜……」 《いや、今のはが悪いと思うぞ?》 《そうね、それは間違いないわ》 「うっ……」 「何してるんだ、置いてくよ!」 「わかってるよ!」 そのやり取りを見て、なのはとユーノが顔を見合わせて笑う。 どうやら悪い人達ではなさそうだ、それがハッキリしただけで気が楽になったなのはだった。 "アースラ"艦内艦長室 同日 時刻18:52 「艦長、来て貰いました」 艦長室の扉が機械音をたてて開く。 「はぁ〜……」 なのはが思わず声を上げる。 その部屋の中は想像もしていなかった、いや、普通ならできる筈もない内装となっていた。 棚に並べられている盆栽、お茶をいれる為の日本古来の道具、竹で作られた水受け……。 壁や天井を除けば、その部屋は和室という他無かった。 「お疲れ様。まぁ〜お二人ともどうぞどうぞ、楽にして」 正座して、いつものどこか抜けた様な雰囲気で2人の緊張をほぐしてやるリンディ。 「どうぞ」 クロノが緑茶と和菓子であるようかんをなのはとユーノに出す。 「あ……は、はい……」 「にしても相変わらず凝ってますね〜、リンディさん」 がようかんを口に運びながらいつもの事の様に話す。 「ええ、日本は大好きな世界だから、今回は特に頑張っちゃったわ」 リンディがそう言って嬉しそうに答える。 その仕事柄から、異世界との接触経験が多く、今回の目的地が日本と聞いて現地の習慣に合わせる為にこの内装にしていたのだった。 日本を国とは呼ばず世界と呼ぶのもまた、彼女が管理局に勤めている人間であるからだろう。 (いくらなんでもやり過ぎだと思うけど……) 生粋の日本人であるなのはすら驚くこの凝った造りは彼女を驚愕させていた。 「なるほど……そうですか……。あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのはあなただったんですね」 ユーノがジュエルシードを発掘してからこれまでの事をリンディ・クロノ・に話していた。 「うん……それで、僕が回収しようと……」 「立派だわ」 「そうだね、関心しちゃうよ」 「だけど、同時に無謀でもある!」 「クロノは相っ変わらず冷たいなぁ」 「別に言ってる事は違いないだろ」 「まぁ……確かにね……」 それを聞いてユーノが顔を伏せる。 「あの……ロストロギアって、何なんですか?」 その様子を見ていたなのはが話題を変えようと質問する。 「あ〜、遺失世界の遺産……って言ってもわからないわね……えっと……。 次元空間の中には、いくつもの世界があるの。それぞれに生まれて育っていく世界……。その中に、極稀に進化し過ぎる世界があるの。 技術や科学……進化し過ぎたそれらが自分達の世界を滅ぼしてしまって……その後に取り残された失われた世界の危険な技術の遺産……」 「それらを総称して、ロストロギアと呼ぶ。使用法は不明だが、使い様によっては世界どころか、次元空間を滅ぼすほどの力を持つこともある危険な技術」 「ま、簡単に言っちゃえばとんでもない威力を持った爆弾ってとこかな」 「簡単に言ってどうするんだ……」 「言ってみればその通りよ。然るべき手続きをもって、然るべき場所に保管されていなければいけない品物。 あなた達が探しているロストロギア、ジュエルシードは、次元干渉型のエネルギー結晶体。 いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物……」 「君とあの黒衣の魔導師がぶつかった時に発生した震動と爆発……、あれが次元震だよ」 「あっ……」 なのはの頭の中で、あの時の場面が鮮明に映し出される。 「その時の威力は、全威力の何万分の一だったんだけどね……。 でも、たった一つで、しかも僅かに解放されただけであれだけの威力と影響があるんだ」 「そう……。複数個集まって動かした時の影響は、計り知れない」 「聞いた事あります……。旧暦の462年、次元断層が起こった時の事……」 「あぁ……、あれはひどいものだった……」 「隣接する平行世界が幾つも崩壊した、歴史に残る悲劇……。繰り返しちゃいけないわ」 そう言って、緑茶に砂糖を入れるリンディ。 「あっ……」 それを見て、驚いて声を上げるなのは。 なんだか今日は驚いてばかりのなのはである。 「これより、ロストロギア……ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」 「「 えっ? 」」 なのはとユーノが揃って驚く。 「君達は、今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」 「でも……そんな……」 ユーノは小さく俯き、なのはが抗議の声を上げる。 「次元干渉に関わる事件だ、民間人に介入して貰うレベルの話じゃない」 「……そうだね、その方がずっと安全だ」 「でも……!」 「まあ、急に言われても、気持ちの整理もつかないでしょう。 今夜一晩、ゆっくり考えて、二人で話し合って……、それから改めてお話をしましょ」 「送って行こう、元の場所で……」 「あ、ちょっと待った」 クロノが立ち上がろうとしたのをが止める。 「どうしたんだ?」 「執務官にはもっと別に仕事があるだろ、僕が送ってくから」 「……わかった、頼んだよ」 「了解了解。じゃ、二人とも行こうか」 「あ、はい……」 「わかりました……」 「ごめんね、二人とも」 「え?」 「なにが……ですか?」 転送室へ向かう通路を歩いていると、急にが謝ったのでなのはとユーノが驚く。 「いや、勝手に話を進めてるし、結構きつい事も言ってるから……。 でも、僕らにとっても、民間人である君達を危険な目に会わせる訳にはいけないんだ」 二人の前を歩くは、申し訳なさそうな表情をして二人の方へ振り返る。 足を止めず、後ろ歩きで進んで行く。 「それは……そうでしょうね」 「わかってるつもりなんですけど……」 ユーノ、なのはの順に答える。 「でもま、最終的に決めるのは君達自身だから、後悔だけはしないようにね。 二人ともしっかりしてそうだし、大丈夫だと思うけど」 そう言って二人に微笑みかける。 「ありがとうございます、えっと……」 なのはが礼を言う。 「ああ、僕は、・だよ。 んで、こっちの白いのがで、黒いのが」 《よろしくね》 《……色で識別するな》 「なんていうか……どっちもデバイスとは思えませんね」 ユーノが不思議に思った事を話す。 「そうだね〜、全然機械っぽくないし、僕はデバイスとは思ってないんだけど。 あ、あと僕に対しては敬語禁止ね、なのはちゃんにユーノ君」 はケラケラ笑いながら話す。 「あ、はい……じゃあ、私の事はなのはって呼んで下さい」 「僕の事はユーノで」 二人が微笑んでそれに答える。 「わかったよ、なのは、ユーノ。それとなのは、敬語禁止って言ったのに」 「にゃはは、どうしても使っちゃうんだ」 「まぁわからなくもないなぁ。よし、じゃあ転送するから気を楽にして。 君達の事は君達が一番だと思った事をやるんだよ、わかった?」 二人は無言で、しかし力強く頷く。 それを見ては安心し、転送する為の装置を操作して二人を転移させた。 「いい子達だったね」 《ええ、あの二人なら、きっと大丈夫ね》 《……そうだな》 少しその場に立ち尽くしていただが、すぐに管制室へ向かって歩き始めた。 "アースラ"艦内管制室 同日 時刻20:08 「凄いや〜! どっちもAAAクラスの魔導師だよ〜!」 驚きを隠さずに話すエイミィ。 「……ああ」 「確かにねー」 「こっちの白い服の子は、クロノ君の好みっぽい可愛い子だし」 「エイミィ、そんな事はどうでもいいんだよ」 「へぇ〜〜〜、そうなんだクロノ」 それを聞いたが意地悪な目でクロノを見る。 「……、後で修練場に来い」 「あはは、受けて立つよ」 二人の間に火花が散る。 「魔力の平均値を見ても、この子で127万。黒い服の子で143万・・・。 最大発揮時は、更にその三倍以上。クロノ君と君より、魔力だけなら上回っちゃってるね〜」 二人が火花を散らした原因を作ったにも関わらず、どこ吹く風で分析を続けるこの管制官も大したもんだろう。 しかも、更に挑発するように分析結果を喋り続けるところがなんとまぁ……。 「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。状況に合わせた応用力と、的確に使用できる判断力だろ」 「そうだよ、魔力があるだけじゃなんにもならないんだから」 二人は上手くその挑発に乗せられている。 「それはもちろん、信頼してるよ。アースラの切り札だもん、クロノ君と君は」 「「 む〜…… 」」 なんともかわいそうなおもちゃになってしまっている二人である。 そんな時、管制室の扉が開き、私服に着替えたリンディが入ってきた。 「あ、艦長」 クロノがそれに気付いて声をあげる。 「ん? あぁ、二人のデータね」 「はい」 クロノが答える。 それを聞いて、リンディはモニターを見上げ、椅子を持つ手に力を入れる。 「確かに……凄い子達ね……」 「これだけの魔力がロストロギアに注ぎ込まれれば、次元震が起きるのも頷ける」 「そうだね……こんなに沢山の魔力を持つなんて、殆ど無い事なんだし……」 クロノ、がそれに答える。 「あの子達……、なのはさんとユーノ君がジュエルシードを集めてる理由はわかったけど……、 こっちの黒い服の子はなんでなのかしらね?」 「随分と、必死な様子だった。何か余程強い目的があるのか・・・」 「でも、そんなに悪意は感じなかったし……純粋に頑張ってるだけに見えたけど……」 はフェイトと対峙した時の事を思い出す。 「……そう……。まだ小さな子よね……。普通に育っていれば、まだ母親に甘えていたい年頃でしょうに……」 「クロノ君ももっと甘えちゃえばいいのにね〜」 エイミィが重くなった空気を追い払うように口を開く。 「あ、それは僕も思う」 またもや意地悪い目でクロノを見る。 「そうねぇ、私ももっと甘えて欲しいわ」 リンディも困った表情をして便乗する。 「ななな……くっ、……今すぐ修練場に来い!」 「上等だ!」 《はあ……全く、どうしてこうなるんだ》 《元気でいいじゃない》 「そうね、子どもは元気が一番だわ」 「からかいやすくて面白いですけど」 そう言って、女性三人はクスクス笑っていた。 ユーノからレイジングハートを通じて連絡が入ってきたのは、クロノとが管制室を出ようとした時だった。 『だから、僕もなのはもそちらに協力させて頂きたいと……』 「協力ねぇ……」 クロノが困った様に呟く。 『僕はともかく、なのはの魔力は、そちらにとっても有効な戦力だと思います。 ジュエルシードの回収、あの子達との戦闘……、どちらにしても、そちらとしては便利に使える筈です』 「うぅん、なかなか考えてますね」 「ま、二人ならそう来ると思ってたよ」 リンディとが答える。 は嬉しそうに笑いながらであったが。 「それなら、ま、いいでしょう」 「か、母さ……! 艦長!!」 クロノが母の予想外の発言に驚く。 「手伝って貰いましょう。こちらとしても、切り札は温存したいもの……、ね、クロノ執務官?」 「そうそう、クロノは次から次へと出なくても僕が行くんだしさ」 もそれに便乗する。 「……はい……ん?」 流石のクロノも母に言われれば文句を言えない様で、渋々了承した。 妙に視線を感じたと思ったら、エイミィとがうれしそ〜にクロノを見ている。 「ふん!」 クロノは拗ねてそっぽをむいてしまった。 それを見て、二人は顔を見合わせてクスクス笑う。 「条件は二つよ。両名とも、身柄を一時時空管理局の預かりとする事。それから指示を必ず守ること……、よくって?」 『わかりました』 そう言って通信が切れる。 「〜……」 「なにかな〜クロノ?」 クロノは物凄く不機嫌な様子で、は物凄く嬉しそうな様子で睨み合っている。 「修練場に来い! 今すぐだ!!」 「よっしゃ! 受けて立つよ!!」 「二人とも頑張れ〜」 《……やっぱりこうなるのか……》 《リンディ、コントロールお願いね》 「ええ、任せといて」 その後、二人はリンディの雷が落ちるまで戦い続けていた。 あとがきらしきもの 優「はい、てことで今回はもう1人のメインヒロインとその使い魔さんに来て頂きました!」 フェイト「……」 アルフ「急に連れて来られたんだけどねぇ……」 優「えっと……その、フェイトさん? まずその物騒な物をしまって貰えませんか?」 フェ「……断る」 優「ヤヴァイ! 殺される!!」 ク「自業自得だ」 優「おー、クロノ君、よく来てくれた! Help Me!!」 ク「断る、まぁ頑張れ」 優「ちょ! クロノ待っ……ってバインド?!」 ア「逃がしゃしないよ!」 フェ「撃ち抜け! 轟雷!!」 バルディッシュ《Thunder Smasher》 優「ぎゃあああああああああ」 エ「……ばかだねほんと」 BACK NEXT 『深淵の種 T』へ戻る |