"アースラ"艦橋 同日 時刻7:07


「四人とも……戻ってきて」

 リンディが静かに命令する。

「……了解」

 クロノもまた、それに静かに答えた。

「で、なのはさんとユーノ君には、私直々のお叱りタイムです」

 リンディが立ち上がって腕を組み、怒気を含んだ声で言う。


"アースラ"艦内会議室 同日 時刻7:23


「指示や命令を守るのは、個人のみならず、集団を守る為のルールです。
 勝手な判断や行動が、あなた達だけでなく、周囲の人達をも危険に巻き込んだかもしれないという事……それはわかりますね?」

 リンディが厳しく諭す。

「「 ……はい 」」

 それに小さな声で答えるなのはとユーノ。

「本来なら、厳罰に処すところですが……、結果として、幾つか得るところがありました。よって今回の事については、不問とします」
「「 ぁ…… 」」

 二人が驚いて顔を見合わせる。

「ただし……。二度目はありませんよ? ……いいですね?」

 リンディが上手く釘を刺す。

「はい……」
「すみませんでした……」

 二人がそう答えて頭を下げる。

「さて……問題はこれからね……。クロノ、君、事件の大元について、何か心当たりが?」
「はい。エイミィ、モニターに」
『はいは〜い』

 先程まで説教の様子を見ていたクロノとが歩み寄る。

『良かったね、二人とも』

 はなのはとユーノに念話を飛ばす。
 それに二人は驚いた様だが、は返事を聞かずに厳しい表情に戻す。
 テーブルの中央に丸い球体の様な物が現れ、そこに一人の女性が映し出される。

「あら……」

 それを見たリンディは驚く。

「そう、僕らと同じ、ミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスタロッサ」
「専門は、次元航行エネルギーの開発だったみたいですね」
「偉大な魔導師でありながら、違法研究と事故によって、放逐された人物です」
「登録データと、さっきの攻撃の魔力波動も一致していました。それで……あの子……フェイトは多分、彼女の……」

 クロノとが順に説明していく。

「フェイトちゃん……あの時、母さんって……」
「親子……ね……」
「そ、その……驚いてたっていうより……なんだか、怖がってるみたいでした……」

 なのはがその時に感じた事を話す。
 それを聞いて、少し考え込んでいたリンディだったが、すぐにエイミィに指示を出す。

「エイミィ! プレシア女史について、もう少し詳しいデータを出せる? 放逐後の足取り、家族関係……その他何でも」
『はいはい、すぐ探します』

(この人が……フェイトちゃんのお母さん……)


同場所 同日 時刻8:44


「プレシア・テスタロッサ……ミッドの歴史で、26年前は中央技術開発局の第三局長でしたが……、
 当時、彼女個人が開発していた次元航行エネルギー駆動炉、ヒュードラ使用の際、違法な材料をもって実験を行い、失敗……。
 結果的に、中規模次元震を起こした事が元で、中央を追われて、地方へと移動になりました。
 随分もめたみたいです。失敗は結果に過ぎず、実験材料に違法は無かったと……。
 辺境に移動後も、数年間は技術開発に携っていました。しばらく後、行方不明になって……。それっきりですね」

 エイミィが調べた事を一通り説明する。

「家族と、行方不明になるまでの行動は?」

 リンディが問いかける。

「その辺のデータは綺麗さっぱり抹消されちゃってます。今、本局に問い合わせて、調べて貰っていますので……」
「時間はどれくらい?」
「一両日中には、と……」
「うぅん……、プレシア女史も、フェイトちゃんも、あれだけの魔力を放出した直後では、そうそう動きは取れないでしょう。
 その間に、アースラのシールド強化もしないといけないし……。あなた達は、一休みしておいた方がいいわね」

 リンディは立ち上がってなのはとユーノに話しかける。

「ぁ……でも……」

 なのはが複雑な心境で曖昧な返事をする。

「特になのはさんは、あまり長く学校を休みっぱなしでも、良くないでしょう。
 一時帰宅を許可します。ご家族と学校に、少し顔を見せておいた方が良いわ」

 そう言って、リンディは会議室を後にする。

「はい……」



海鳴市住宅街高町家 同日 時刻17:30


「と、そんな感じの十日間だったんですよ〜」
「あらぁ、そうだったんですかぁ」
『リンディさん……見事な誤魔化しというか……真っ赤な嘘というか……』
『凄いね……』

 なのはとユーノが変に感心する。その会話の内容は嘘が9割方を占めていたのだった。
 ちなみに、なのはの父である高町士郎は、コーチ兼オーナーをしているサッカーチームの試合があるらしく、ここにはいない。

『本当の事は言えないんですから……。ご家族にご心配をおかけしない気遣いと言って下さい』
『まぁ……確かに魔法の事とか言える訳ないんだし……』
『しかしこれだけ上手く誤魔化せられるのも凄いな……』
『リンディもやるわね〜』

 念話で感想を述べる達。
 はソファーから少し離れた所に立ったままで話を聞いているのだった。

『あの……なのは?』
『ん? どうしたの君』
『さっきからやたらとお兄さんから視線が……』

 なのはは兄である恭也を見ると、普段の冷静な雰囲気から打って変わって妙な敵意を顕わにしていた。
 恐らくはなのはが同年代の男の子を連れて来た事に過敏に反応してしまっているのだろう。

「ところで、そちらの男の子は?」

 噂をすればなんとやら、恭也がの方を見て問いかける。

「ああ、その子は君。私のお手伝いをしてくれている子ですわ」

 リンディが答える。

「始めまして、といいます」

 が軽く頭を下げて挨拶する。

「あらあら、ご丁寧にどうも」
「礼儀正しいね〜」

 桃子と美由紀が好印象を受けたのを見て、さらに敵意を増し始める恭也。

『う〜……僕なにかしたかな……』
『どうしたのかな、お兄ちゃん……』

 二人は理由がわからない様だ。

「そういえば、この家は何かの武道の家系なんですか?」

 リンディがこの家に入る前、道場があったのを思い出して聞いてみる。

「ええ、うちは御神流という流派を受け継ぐ家系です」

 恭也がそれに答える。

「そうなんですか〜、君も剣術に心得があるんですよ〜」
『リ、リンディさん!』

 リンディはを立てようと言ったつもりなのであろうが、その言葉は恭也を刺激するのに充分だった。

「では、是非手合わせ願いたいな」
「えっと、あの……僕は別に……」
「最近相手がいなくて困っていたので」
「あぁ……そ、そうですか……」

 これはもう逃げられないな、と本能で感じ取っただった。


 高町家の道場で、と恭也が木刀を手にして対峙している。

『なんでこうなるかな〜……』
『……さあな』
『ごめんね、君……』
『別になのはが悪いわけじゃ……』

「それでは一本勝負でいきますよ〜」

 美由紀が審判をするようだ。

「よろしく」
「こ、こちらこそ……」

 二人が木刀を構える。

「はじめ!」
「「 ……! 」」

 美由紀が言った瞬間に二人は跳躍して木刀を交える。
 二人は物凄い速さで剣撃を繰り出し、とんでもない攻防を繰り広げる。

「「 はぁぁぁあ!! 」」

 両者の木刀がぶつかり合い、瞬きもできない程の速さで打ち合い続けている。

 恭也の木刀がの足を狙い、それを跳躍して避け、そのまま上から木刀を振り下ろす
 それを防いでを弾き飛ばし、一気に距離を詰める恭也。

 恭也が突きかかるがそれを体を捻って避け、そのまま遠心力を使って背中に斬りかかる。
 木刀を背中に持っていってそれを防ぎ、蹴りを入れてを吹き飛ばす。
 吹き飛ばされたが壁を蹴って突進するが、恭也はそれを受け流す。

 勢い余って床に突っ込んだだが、その強靭な脚力で一気に踏み止まって恭也の喉元に木刀を突きつける。
 しかし、恭也もまた半身のままでの喉元に木刀を突きつけていた。


「「「「 …… 」」」」

 空いた口が塞がらないとは正にこの事だろう。
 は魔法を使わないとしても、近接戦闘のエキスパートだ。
 何度と無く実戦を潜り抜けてきた、管理局でも類を見ない優秀な剣士とも言えるだろう。
 しかし、普通の一般人の青年がそのと互角にやり合ってしまったのだった。


「美由紀、終わったぞ」

 恭也が茫然と突っ立っている妹に声をかける。

「え? あ、あぁ、この勝負、引き分け!」
「はぁ〜……疲れた……」
「悪かった、つい熱くなって……」
「いえ、でも強いんですね」
「君もな。是非また手合わせ願いたいよ」
「あはは……遠慮しときます」

 二人は笑いながら握手する。
 なのは、ユーノ、リンディ、美由紀の四人はしばらく動けなかった。




あとがきらしきもの

優「うーん……恭也の性格がわからん……。
  実は僕、とらいあんぐるはーと(?)知らないんですよね……。
  なのはもアニメ以外のものは見たことないんです(*´・ω・`)」
ク「……マジか?」
優「マジだ」
ク「……大丈夫なのか、それ……」
優「だから恭也の性格とか完璧におかしいと思うので、そこは勘弁して下さいね(*´・ω・`)」


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