海鳴市内 私立聖祥大学付属小学校屋上 5月8日 時刻7:00


 「これが学校かぁ……」

 がぼそっと感想を言う。

 なのはが一日学校に行くという事で、リンディが、

 「君は学校を知らないんだし、一度行ってみるといいわ」

 と言ってなのはについて行く事になっていたのだった。

 「うん、ここが私の通う私立聖祥大学付属小学校だよ」
 「なんか、子どもでいっぱいだね……」
 「それは……小学校は子どもの通う所だから……」

 の素直すぎる感想になのはが困ったように答える。

 「それじゃ、私は授業とかあるから、君は見つからないようにしててね」

 「わかった、行ってらっしゃい」
 「行ってきま〜す」
 「な〜の〜は〜?」
 「うひっ?! ア、アリサちゃん……」

 急に後ろから声をかけられ、驚くなのは。
 早速見つかってしまったはもう抵抗する気力も吹き飛んでしまった。

 『うっはー……さっそく見つかっちゃったよ……』
 『堂々と姿を晒し過ぎだ』
 『はぁ〜……これは面倒な事になっちゃったわね』
 『あうぅ〜……ど、どうしよう……』

 達が念話で対策を練る。
 まぁ、今物凄く楽しそうな表情をしている、小悪魔に見えなくも無い少女がそんな暇を与えてくれないだろうが。

 「この男の子誰なの!?」
 「ア、アリサちゃん……そんなに大声出さなくても……」
 『あぁ〜、すずかちゃんが助け舟を出してくれます様に〜』

 なのはが心の中で祈る。

 「でも、ほんとに誰なの? なのはちゃん」
 「うっ……」

 その願いは純真無垢且つ素直な少女の一言によって崩れ去った。

 『……だめだな』
 『あうぅ〜……すずかちゃ〜ん……』
 『とりあえず、なんとか言って切り抜けないと……』
 「え、えっと……この人は……」
 「僕はっていいます。
  なのはとは遠い親戚で、10日間なのはが忙しかったのは僕の家の用事で色々手伝って貰ってたからなんですよ」

 がやけにすらすらと嘘の説明をしていくのを聞いてなのははおろかも驚く。

 『……、頭でも打ったのか?』
 『変な物でも食べたんじゃ……』
 『……二人が普段どんな目で僕を見てるのか良く分かったよ』
 「そうなの? なのは」

 アリサが納得した様になのはに尋ねる。

 「え、えっと……まぁそんなところ……」
 「……なんか怪しいわね」
 「うっ……」

 しかし、それはなのはがかなり曖昧な返事をした為に怪しまれてしまう。

 「まぁいいわ、無事に帰ってきたんだから……許してあげる」
 「うん……ほんとに良かった……元気で……」
 「……ありがとう、アリサちゃん、すずかちゃん……」

 三人は少しの間輪を作って無言で再会を喜んでいた。

 『なのはには本当に良い友達がいるんだね……』
 『……そうだな』
 『こんなに良い子達が心配してくれてるんだから……良かったわね、なのはちゃん』
 『……はい……本当に、かけがえの無い親友です』
 「……で、本当にただの親戚なんでしょうね?」
 『許してくれたんじゃないのかー?!』

 が念話で叫ぶ。

 「見た事もない格好してるし……この学校の子じゃないんでしょ?」
 「ま、まぁ……今日はちょっと見学しに来た様な感じで……」

 はアリサとすずかにじーっと見つめられてしどろもどろになる。

 『さっき言ったみたいに説明すればいいだろ』
 『あれはリンディさんからのうけうりだったんだよ……』
 『流石はリンディ……抜け目無いわね』
 『この子の方が一枚上手だったがな』

 学校のチャイムが鳴ったのはこの時だった。

 「あ、チャイムだよ! アリサちゃん!」

 ここぞとばかりに言うなのは。

 「くっ、仕方ないわね、昼休みにまた来るからここで待ってなさいよ」
 「……マジですか?」
 「マジもマジ、大マジよ」
 「ア、アリサちゃん、だめだよ困らせたら……それより早く行かないと」
 「うぅ〜……わかったわよ」

 そう言って階段へと走っていく三人。

 「この世界の女の子って怖いんだね……」
 《……並みのモンスターよりよっぽどな》
 《モンスターと比べるのはどうかと思うわ》

 そんな会話をして、律儀に昼休みまで待っていたはアリサからの怒涛の質問責めにあうのだった。


 バニングス邸 同日 時刻3:31


 「うわ〜……」

 がそのあまりの大きさに思わず声を上げる。

 「なに驚いてんのよ」
 「いや、大きい家だなって……」
 「そう? 実家の方はもっと大きいけど」
 「あ、そう……」

 そのやり取りを見て、なのはとすずかはクスクス笑う。

 学校で、アリサが昨日、アルフと思われる大きな犬を拾ったという事もあり、
 なのはは勿論、も(半ば強制的に)アリサの家……というより豪邸を訪れていたのだった。


 『やっぱり……アルフさん……』

 なのはが念話で話しかける。

 『……あんた達か……』
 『どうして怪我を?』
 『それに、フェイトちゃんは……』

 、なのはが質問する。

 アルフはそれに答えずに檻の奥へ引っ込んでしまった。

 「あらららら、元気なくなっちゃった。 どうした? 大丈夫?」

 アリサが純粋に心配して声をかける。

 「傷が痛むのかも……。 そっとしといてあげようか?」

 すずかも同じように心配する。

 「うん……」

 なのはが答えた時、すずかに抱かれていたユーノが檻に近づく。

 「ユーノ! こら、危ないぞ」
 「大丈夫だよ、ユーノ君は」
 「そうだね、心配しなくても平気だよ」
 「……なんであんたがそんなにユーノに詳しいのよ」
 「うっ……いや、なのはが来てた時にユーノも来てたから……」
 「ふ〜〜〜ん……」
 『……強敵だな』
 『そうね……なかなかやるわね、この子』

 がやたらと鋭いアリサに警戒すると同時に感心していたりもする。

 『なのは、、彼女からは僕が話を聞いておくから、二人はアリサちゃん達と』
 『うん』
 「それじゃ、お茶にしない? おいしいお茶菓子があるの」
 「あ、僕はユーノが心配だからここに……」
 「さっき心配しなくてもいいって言ったのはあんただったよね〜……」
 「うぐっ……」
 『……強い』
 『この子……侮れないわ……』

 はなぜか敵対心すら持ち始めていた。

 「いや、やっぱり三人で楽しんで……」
 「だめ! あんたも来るの!」
 「うぅ〜……」

 はアリサに腕をつかまれてズルズル引きずられていく。

 『なんでこうなるんだろ……』
 『にゃはは……』


 『一体、どうしたの? 君達の間で、一体何が……』
 『……あんたがここにいるって事は……管理局の連中も見てるんだろうね……』
 『……うん』
 『時空管理局、クロノ・ハラオウンだ。 どうも事情が深そうだ……。
  正直に話してくれれば、悪い様にはしない。 君の事も……君の主、フェイト・テスタロッサの事も……』
 『……話すよ……全部……。 だけど約束して……、フェイトを助けるって……! あの子は何も悪くないんだよ!』
 『約束する。 エイミィ、記録を』
 『してるよ』


 『フェイトの母親……プレシア・テスタロッサが、全ての始まりなんだ……』


 「ほらほらー! どーんとかかってきなさいよ!」
 「ぐっ……こ、これでどうだ!」
 「残念でした〜♪」
 「あぁぁぁぁ、また負けたーーーーー!!」
 『……あほかお前は』
 『、話聞いてるの?』
 「くうぅぅぅ……もう一回!」
 「いくらでも相手にしてあげるわよ〜」
 「ア、アリサちゃん……もうちょっと手加減してあげても……」
 『……聞いてないな』
 『……、後で覚えときなさい』

 遂に怒りがMAXとなったに怯えながら、心の中で十字架をきるだった。

 二人は今、俗に言う格闘ゲームをしている最中なのであるが、は既にアリサに33連敗中。
 全く初心者のを格好のカモにして楽しむアリサに対して、負けず嫌いのが健気にも挑み続けているのであった。

 その間にも重要な話が続いていたのだが……は後でリンディとにこっ酷く叱られるだろう。

 「あ、遅いよなのは!」

 部屋の扉が開き、アリサがウキウキしながらなのはに言う。

 「また負けた……」

 それとは対照的に、ボッコボコにやられ続けたが落ち込みまくっている。

 「君……大丈夫?」

 すずかが心配して声をかける。

 『なにかあったんですか……?』
 『……ほっといてやってくれ』
 『あ、はい……』


 「はぁ! なかなか燃えたわ!」
 「……」

 明と暗を絵に描いたような光景である。

 「にゃはは……」
 「だ、大丈夫? 君……」
 「……大丈夫……」

 明らかに大丈夫ではないが。

 「でもやっぱり、なのはちゃんが居た方が楽しいな……」

 すずかが心の底から思えた事を話す。

 「ありがとう……多分、もうすぐ全部終わるから……。 そしたら、もう大丈夫だから……」
 「、あんたなのはをこき使ったりしたら許さないんだからね!」

 アリサが大声でに言う。

 「し、しないよそんな事!」

 は精一杯否定しているが。

 「でも……なのは、なんか……少し、吹っ切れた?」
 「え? あ、えっと……どうだろう……?」
 「心配してた……てか、私が怒ってたのはさ……なのはが隠し事をしてる事でも、考え事してる事でもなくって……。
  なのはが不安そうだったり、迷ったりしてた事……。
  それで時々、そのままもう私達のところへ帰ってこないんじゃないかなって思っちゃうような目をする事……」

 すずかが二人の様子を不安そうに見つめる。
 なのははその言葉に涙が溢れそうになったのか、手で目を拭う。

 「……行かないよ、どこにも……。 友達だもん、どこにも行かないよ……」

 少し涙声で、立ち上がってすずかとアリサを見ながら答えるなのは。

 「そっか……」
 「うん……」

 それを聞いて安心するアリサとすずか。

 『三人とも、ほんとに良い子達だね……』
 『あぁ……』
 『まだ9歳なのに……立派ね……』

 が念話で話す。

 そしてバニングス邸を後にして、はアースラに呼び出され、なのはは家に帰っていった。



 海鳴市住宅街高町家 5月9日 時刻5:27


 「準備はできた?」

 高町家の前で待っていたが家から出てきたなのはに問いかける。

 「……うん!」
 「そっか、じゃあ行こう。 心当たりがあるんでしょ?」
 「うん……あそこなら必ず」
 「わかった」

 なのははフェイトが現れるであろう場所に向けて走る。

 もそれについて行き、アルフも途中からそれに加わった。

 ――そして


 海鳴市内 海鳴臨海公園 同日 時刻5:55


 「ここなら……いいね? 出て来て……フェイトちゃん……!」

 なのはが目を瞑って念じる様に声を上げる。

 『ここは……僕らが始めてなのは達と出会った……』
 『そうだったな……』
 『……大丈夫?』
 『……あぁ、命令は……ちゃんと守るよ……』

 リンディから聞かされたフェイトについての真実、しかし、それをなのはに言うのは禁じられていた。

 そして、四人が気配を感じ取って後ろを振り向く。

 《Scythe form》

 閃光の戦斧が独特の機械音を鳴らして魔力刃を形成する。

 黒いバリアジャケットを身に纏ったフェイトが外灯の上に立つ。

 「フェイト……もうやめよう……。 あんな女の言う事……もう聞いちゃだめだよ……。
  フェイト……このまんまじゃ不幸になるばっかりじゃないか……。 だからフェイト!」

 アルフが必死に説得しようとする。

 しかし、フェイトは首を横に振り、それを拒絶する。

 「だけど……それでも私は……あの人の娘だから……」
 「……っ」

 その言葉を聞いて、は手を握り締める。 強く、強く。

 なのはが左腕をあげ、バリアジャケットに換装してレイジングハートを握り締める。

 「ただ捨てれば良いって訳じゃないよね……。 逃げれば良いって訳じゃもっとない……。
  きっかけは……きっとジュエルシード……、だから賭けよう……お互いが持ってる、全部のジュエルシードを!」
 《《 Put out 》》

 レイジングハートとバルディッシュがジュエルシードを出す。

 「それからだよ……、全部、それから……。 私達の全ては、まだ始まってもいない……。 
  だから……本当の自分を始める為に……。 始めよう……最初で最後の本気の勝負!」

 なのはがレイジングハートをフェイトに向け、フェイトはそれを無言で見据える。


 まだ目を覚ましていない町から程遠くないこの公園で、二人の少女の決戦の時が刻一刻と迫っていた。




 あとがきらしきもの

 優「やばい、アリサがいると物凄く書き易くて面白い」
 アリサ「当たり前でしょ、私を誰だと思ってんのよ」
 優「うぉぉ!? び、びびった……」
 すずか「だ、だめだよアリサちゃん……勝手にお邪魔しちゃ……」
 ア「いいのよ、別に気にしなくても」
 優「なにがいいんだっ」
 ア「私が良いって言ったら良いのよ!」
 優「……さようでございますか……」
 ク「……強いな……」


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