"アースラ"艦橋 同日 時刻6:15


 「第二小隊、転送完了」
 「第一小隊、進入開始」

 アレックスとランディが状況を伝えていく中、リンディはフェイトを連れ帰ってきたなのは達に歩み寄る。

 「お疲れ様。 それから……フェイトさん、はじめまして」
 「……」

 リンディの言葉に答える事無く、フェイトはバルディッシュをただ見つめ続け、アルフがそれを心配そうに見守る。

 『母親が逮捕されるシーンを見せるのは忍びないわ。 なのはさん、彼女をどこか別の部屋に』
 『あ、はい』

 リンディがフェイトを気遣ってなのはに念話で指示を出し、なのはがそれに小さく答える。

 「フェイトちゃん、良かったら私の部屋……」
 「総員、玉座の間に侵入。 目標を発見!」

 タイミング悪く、なのはの言葉を遮る様に武装局員がプレシアを発見する。


 時の庭園内玉座の間 同日 同時刻


 「プレシア・テスタロッサ! 時空管理法違反、及び、管理局艦船への攻撃容疑で、あなたを逮捕します!」
 「武装を解除して、こちらへ」
 「……フン」

 二個小隊もの武装局員が、不敵な笑みを浮かべるプレシアを包囲していく。

 「こっちを固めろ!」
 「こっちに何かあるぞ!」

 玉座の後ろに扉を発見した局員が声をあげ、その中に入っていく。

 「っ! こ、これは……」

 中の光景を見た局員が驚愕する。
 そこには、一人の少女がカプセルの中で眠っていたのだった。


 「えっ!?」
 「……!」

 それを見たなのはが声をあげて驚き、フェイトは絶句する。


 「うわぁっ!!」
 「ぐわああ!!」

 二人の局員が移動魔法を使って突如現れたプレシアに吹き飛ばされる。

 「私のアリシアに……近寄らないで!」

 局員達をまるで汚いモノを見る様な目で睨みつけるプレシア。

 「う、撃てー!」

 それに威圧され、焦った様子で局員達が砲撃魔法を放つが、プレシアのバリアに難なく防がれてしまう。

 「……うるさいわ」

 そう吐き捨て、左手に魔力を集中するプレシア。

 『危ない! 防いで!!』
 「「「「「 ぐわあああああああああああああ 」」」」」

 リンディから通信が入るが既に遅く、周囲を魔力電撃が覆い尽くして局員達が悲鳴を上げて倒れる。

 「ふっ……クックック……あっはっははははは」

 それを見て狂った様に笑うプレシア。

 「くそ……」

 第一小隊の隊長がなんとか体を起こして抵抗しようとする。

 「鬱陶しいわ……死になさい!」

 それに気付いたプレシアが砲撃魔法を放つ。

 「くっ……!」

 それを見て彼は死を覚悟したが、一人の青年が自分の前に突如現れてそれを防いでいた。

 『リンディさん、早く局員達を』

 彼を救ったのは、結界を解除しただった。
 フィールはプレシアの砲撃魔法を防ぎながらリンディに念話を飛ばす。


 「エイミィ! 局員達の送還を!」
 『りょ、了解です!』

 リンディが管制室のエイミィに指示を出す。

 「アリ……シア……?」

 フェイトが聞き覚えのある名前を呟く。
 夢の中で、母が自分に向かってフェイトではなくアリシアと呼んでいた事。
 フェイトの脳内に、その時の光景が鮮明に映し出される。

 『座標固定、0120 503!』
 「固定! 転送オペレーションスタンバイ!」

 エイミィ達が局員達を回収していく。


 「……フン、よく耐えたわね……」

 そう言い捨てて、には目もくれずアリシアの入ったカプセルに歩み寄るプレシア

 「く……そ……」

 が少年の姿に戻って膝をつく。
 プレシアの強力な砲撃魔法から局員を助ける事は出来た。
 が、先程のダメージが残っていたせいか、結界解除の持続時間がいつもより半減してしまっていた。

 「もうだめね……時間が無いわ……。 たった9個のロストロギアでは、アルハザードに辿り着けるかどうかはわからないけど……。
  でも、もういいわ。 終わりにする。 この子を亡くしてからの暗鬱な時間も……、この子の身代わりの人形を、娘扱いするのも……。
  聞いていて? あなたの事よ、フェイト……。せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ……。
  役立たずでちっとも使えない……私のお人形……」
 「役……立たず……?」

 が怒りに身を震わせる。
 そして、彼にはその言葉がやけに引っかかっていた。
 昔……自分もその言葉を誰かに言われた事があったように感じたのである。

 『……最初の事故の時にね……、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。
  彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる、使い魔を越える、人造生命の生成……。
  そして……死者蘇生の秘術……。 フェイトって名前は、当時彼女の研究に付けられた、開発コードなの』

 エイミィがアースラに搭乗している全員とに伝えていく。

 「良く調べたわね……。 そうよその通り……。 だけどだめね……、ちっとも上手くいかなかった……。
  作り物の命は所詮作り者……。 喪ったものの代わりにはならないわ……。
  アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。 アリシアは時々我侭も言ったけど、私の言う事はいつでも良く聞いてくれた……」
 『やめて……』

 なのはが小さく言うのが聞こえたような気がした。

 「アリシアは……いつでも私に優しかった……。
  ……フェイト……、やっぱりあなたは、アリシアの偽者よ。
  せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃだめだった……」
 『やめて……やめてよ!』

 なのはがさっきより大きな声で言ったが、の耳にはもう聞こえていなかった。

 《……?》

 が異変に気付く。
 二つ目の結界が解けようとしていた。 

 「アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形……。
  だからあなたはもういらないわ……どこへなりと、消えなさい!!」
 『お願い! もうやめて!!』
 「はっはっはっは……あはははは……。 良い事を教えてあげるわ……フェイト……。
  あなたを作り出してから、私はずっとね……あなたの事が……大嫌いだったのよ!」
 「……勝手に作り出しておいて……それが自分の思う通りのものでなかったら……ゴミみたいに扱っても良いって言うのか……?」

 それまで黙っていたが下を向いたまま口を開く。

 「……えぇ、そうよ。 失敗作は所詮失敗作なんだから」
 「失敗作……? フェイトは……必死で生きてるんだ……。 あの子だって……この世界で生きる……一つの命なんだぞ!!」

 から莫大な魔力が溢れ出し、周囲のパイプを破裂させる。
 プレシアを憎悪の限りに睨みつける

 「……! この魔力は……」
 「……ぐっ……く……!」

 莫大過ぎる魔力がを包み込んでいき、それに押し潰されそうになる。

 《!》
 《いけない! このままだと!》

 の本体が光り輝き、から溢れ出る魔力を押さえ込む。

 《リンディ! 早くを戻して!!》
 『わかっています! エイミィ!』

 がリンディに大声で呼びかけ、はプレシアの前から姿を消す。


 「局員及び嘱託魔導師の回収、終了しました」

 ランディが情報を伝える。

 「ん……君は?」
 『……大丈夫、なんとか押さえ込んだわ』

 リンディの問いにが答える。
 結界解除の鍛錬を積むに協力しつつ、は、
 彼の魔力が暴走した時に備えての対策法を探しており、一度だけなら押さえ込める様になっていたのだった。
 一度押さえ込んだ後は、約一ヶ月は押さえ込めない期間が続くのだが。

 『大変大変! ちょっと見て下さい! 屋敷内に魔力反応……多数!』
 『なんだ……なにが起こってる!?』

 モニターが庭園内に次々と湧き出てくる傀儡兵を映し出す。

 「庭園敷地内に魔力反応……いずれも、Aクラス!」
 「総数60……80……まだ増えています!」

 アースラ艦内にアラートが鳴り響き、アレックスとランディが情報を伝えていく。

 「プレシア・テスタロッサ……一体何をするつもり!?」

 リンディが驚きを隠さずに声を上げる。


 「私達の旅を……邪魔されたくないのよ……。 私達は旅立つの……。 忘れられた都……アルハザードへ!」
 『まさか!?』
 「この力で飛び立って……取り戻すのよ……全てを!!」

 9個のジュエルシードが輝き出して、その魔力を解き放ち始める。


 「次元震です! 中規模以上!!」
 「震動防御! ディストーションシールドを!」
 「ジュエルシード、9個発動! 次元震、さらに強くなります!」
 「転送可能距離を維持したまま、影響の薄い空域に移動を!」
 「りょ、了解です!」
 「ランジ係数拡大! このままだと次元断層が!!」


 「アル……ハザード……」
 「バカな事を!!」
 「クロノ君!?」
 「僕が止めてくる! ゲート開いて!」


 (忘れられた都……アルハザード……。 もはや失われた禁断の秘術が眠る土地……。
  そこで何をしようっていうんだ!? 自分が失くした過去を、取り戻せるとでも思ってるのか!?)

 クロノが転送ポートに向けて走りながらS2Uを起動させる。

 「どんな魔法を使ったって……過去を取り戻す事なんか……できるもんかー!!」


 「私とアリシアは……アルハザードで全ての過去を取り戻す! アーッハハハハハハ!!」

 プレシアが狂ったように笑い続ける。


 次元断層発生まで、残り約31分24秒




 あとがきらしきもの

 優「頭がいたい〜〜〜……」
 ク「ふーん」
 優「それだけ?!」
 ク「まぁしっかり書いてくれ」
 優「この状態で書くのは結構きつい……」
 ク「あっそ」
 優「……冷たい奴……」
 エ「でも、物語りも遂にクライマックスに近づいてきたね!」
 優「ですよ! 気合入れて頑張ります!」


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