時の庭園内螺旋階段 同日 時刻7:05


 二つの大穴が開いた螺旋階段で、レイジングハート、バルディッシュ、が排気ダクトから魔力残滓を排出する。

 「フェイトちゃん!」

 なのはがフェイトの方を向いて名前を呼ぶ。

 「フェイト! フェイト! フェイトー!!」

 アルフが人間形態になり、泣きながらフェイトに抱きつく。
 感情が高ぶっている為か、耳と尻尾が出てしまっていた、といっても、ここなら別に関係ないのだが。

 「アルフ……。 心配かけてごめんね……。
  ちゃんと自分で終わらせて……、それから始めるよ、本当の私を」


 「……あともう少し……」

 9個のジュエルシードが輝きを増し、プレシアが静かに呟く。


 ドアが吹き飛び、そこからなのは達が進入する。

 「あそこのエレベーターから、駆動炉に向かえる」
 「うん、ありがとう! フェイトちゃんは……お母さんの所に?」
 「うん」

 なのはがレイジングハートを置き、フェイトに歩み寄っていく。

 「私……その……上手く言えないけど……頑張って……」

 なのはがフェイトの手を握って励ましの言葉をかける。

 「……ありがとう……」

 フェイトがその手を握り返して小さく答えた。

 「今クロノが一人で向かってる! 急がないと間に合わないかも!」

 ユーノがなのは達に駆け寄って情報を伝える。

 「フェイト!」
 「うん!」

 アルフが呼びかけ、それに答えるフェイト。

 「なのは、ユーノ、二人だけで駆動炉を封印できる?」

 それまで口を閉ざしていたが二人に問いかける。

 「うん!」
 「大丈夫!」

 なのはとユーノが威勢良く答える。

 「そう……フェイトとアルフも大丈夫だね?」
 「……」
 「ああ!」

 フェイトが小さく、だが確実に頷き、アルフが主の分まで元気に答える。

 「僕はクロノと一緒にプレシアの元に行く。 駆動炉を頼んだよ、なのは! ユーノ!」

 そう言い残して第一結界を解除し、青年の姿に戻って転送魔法を使い、はその場から姿を消した。


 『エイミィ!』
 『なのはちゃんとユーノ君……駆動炉へ突入。 フェイトちゃんとアルフは最下層へ。
  君は確認できないけど……大丈夫、いけるよきっと』

 『ああ!』

 クロノがエイミィから念話で状況確認した後、もう何個目かわからない扉をぶち破る。

 「くそ……まだいるのか……」

 クロノが額から血を流しながら呟く。
 既にかなり下の方まで来ている筈だが、一向に傀儡兵の数が減らないでいた。

 侵入者を確認した傀儡兵達が一斉にクロノに襲い掛かる。
 それを見て攻撃態勢を取ろうとするクロノだが、疲労から体勢を崩してしまう。

 「し、しまった……!」

 それを見逃すことなく、傀儡兵達が襲い掛かる。
 なんとか防御しようとシールドを展開しようとするが、突如目の前に閃光が走り、光の中から青年の姿をしたが現れ群がる傀儡兵を一蹴する。

 「……?」

 クロノが唖然として無意識に彼の名前を呼ぶ。
 はクロノに少し視線を向けただけで、すぐに前方で蠢く大量の傀儡兵達に視線を戻す。
 彼の足元に魔法陣が浮かび上がり、の本体と共に緑色に染まっていく。
 の本体に淡い緑色をした風が周囲から集まり、の周囲にも風が渦巻いていく。

 「吹き荒れろ……全てを断ち切る嘆きの風よ……」
 《Grief Death Gale》

 から一陣の突風が放たれ、その通り道に存在するもの全てを切り裂いていく。
 大気すら切り裂き、目に見えない鋭利過ぎる刃が傀儡兵達をバラバラにしてしまった。

 の排気ダクトから魔力の残滓が排出され、が少年の姿に戻る。

 「これで……一つ貸しだね……」

 がかなり疲労した様子でクロノに話しかける。

 「……疲れ切ってるくせに良く言うよ……」

 クロノが苦笑いを浮かべながらに歩み寄る。

 「くそ……頭がふらふらする……」

 はそう言うと、膝をついて座り込んでしまった。

 《短期間で結界を解除し過ぎたな……》
 《えぇ……それに、二つ目の結界まで消えかけたんだから……》

 が心配そうに言う。

 『プレシア・テスタロッサ』

 リンディの念話が聞こえる。

 『終わりですよ。 次元震は、私が抑えています。
  駆動炉もじき封印。 あなたの元には、執務官と嘱託魔導師が向かっています。
  忘れられし都アルハザード……そしてそこに眠る秘術は、存在するかどうかすら曖昧な、ただの伝説です!』
 『違うわ……アルハザードへの道は次元の狭間にある……。
  時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落していく輝き……道は、確かにそこにある!』
 『随分と分の悪い賭けだわ。 ……あなたはそこに行って、一体何をするの? 失った時間と、犯した過ちを取り戻すの?』
 『……そうよ……私は取り戻す……。 私とアリシアの……過去と未来を……! 取り戻すの……こんな筈じゃなかった……世界の全てを!』

 「……っ、勝手なことを……! 行こう、クロノ!」

 リンディとプレシアの会話を聞いていたが声を荒げ、気力で立ち上がる。

 「ああ! 壁を吹き飛ばすよ!」
 《Blaze Cannon》

 クロノとの道を塞いでいた瓦礫が爆音を立てて吹き飛ばされる。

 「なっ……!」

 プレシアが驚き、煙の中からクロノとが姿を現す。

 「世界は、いつだって……こんなはずじゃない事、ばっかりだよ!
  ずっと昔から……いつだって誰だってそうなんだ!」

 フェイトとアルフが上から降りてくる。

 「こんなはずじゃない現実から、逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!
  だけど、自分の勝手な悲しみに無関係な人間まで巻き込んで良い権利は、どこの誰にもありはしない!」

 クロノが大声でプレシアに向かって諭す。

 「あなた程の魔導師ならわかっていた筈です……。
  始まりがあるものには必ず終わりが来る……それは、人間も、世界も、星も……なんだってそうだ!
  命あるものには必ず死は訪れる! そして、その命は……何物にも代えられない……たった一つだけのものなんだ!
  その子、アリシアを例えアルハザードで蘇らせたとしても……その子はもう、あなたの知っているアリシアには絶対に戻らない!!」

 もまた、プレシアへ必死に訴える。

 「黙りなさい! くっ……ゴホッゴホッ」
 「母さん!」

 プレシアが咳き込むのを見てフェイトが駆け寄ろうとする。

 「何をしに来たの? 消えなさい……もうあなたに用は無いわ……」

 しかし、それをプレシアは許さない。

 「……あなたに言いたい事があって来ました……。
  私は……私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。 あなたが作った、ただの人形なのかもしれません……。
  だけど……私は、フェイト・テスタロッサは……あなたに生み出してもらって、育ててもらった……あなたの娘です!」
 「ふっ……ふふふふ……あはははは、あはははははははっ!!
  だからなに!? 今更あなたを娘と思えと言うの?」
 「あなたが……それを望むなら。
  ……それを望むなら、私は、世界中の誰からも、どんな出来事からも……あなたを守る。
  私が、あなたの娘だからじゃない。 あなたが、私の母さんだから!」

 そう言い切って、フェイトは母に向けて手を伸ばす。

 「……くだらないわ」

 しかし、プレシアは冷たく吐き捨てる。
 そして、庭園の崩壊を助長させる魔法を使う。

 「まずい!!」

 それを見てクロノが叫ぶ。

 庭園全体が激しく揺れ動き、崩壊の速度が上がる。

 『艦長! だめです! 庭園が崩れます! 戻ってください!
  この規模の崩壊なら、次元断層は起こりませんから!! クロノ君達も脱出して! 崩壊まで、もう時間がないの!!』

 エイミィが全員に通信を飛ばす。

 「了解した! フェイト・テスタロッサ!」

 「フェイト!!」

 クロノ、が立ち尽くしている少女の名を叫ぶ。
 だが、少女がそれに反応する事は無かった。

 「私は向かう……アルハザードへ! そして全てを取り戻す! 過去も……未来も……たった一つの幸福も!!」

 直後、プレシアの足元が崩れて虚数空間へ落ちて行く。

 「母さん!!」
 「フェイト!!」

 それを追おうとするフェイトをアルフが体を張って止める。


 「一緒に行きましょう……アリシア……。 今度はもう……離れないように……」

 そう言って、プレシアとアリシアは虚数空間に消えていった。


 「……」
 「フェイト!」
 「くそ!!」
 「!!」

 動こうとしないフェイトに呼びかけるアルフ。
 そしてそれを見て飛び出すに大声をあげるクロノ。

 『お願い、皆! 脱出……急いで!!』

 エイミィが必死で通信を飛ばす中、時の庭園が爆発を起こして崩れ落ちて行った。




 あとがきらしきもの

 優「ん〜……遂に第一期最大の舞台の幕が閉じましたね〜」
 ク「いや、まだ終わってないけどな」
 優「そんな細かい事はきにしなーい」
 ク「……まぁいつもの事か」
 優「……慣れられるのもなんだかな〜……」
 エ「まぁ、とにかく次は深淵の種Tの最終話だね!」
 優「そうです! ここまで良く来れたもんだ……」
 ク「間違いなく奇跡だな」
 優「奇跡でもなんでもいいもんね! では、最終話もお楽しみに!」


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