"アースラ"艦内フェイトの私室 同日 同時刻


 「でも、いつの間に誘導弾を扱えるようになったの?」
 「ああ、ずっと鍛錬してたんだけどね。 ようやく三発まで撃てるようになったから」
 「そうなんだ……」

 なのはが送ってくれるディスクの話を一通りした後、先程の戦闘訓練の時の話をする2人。

 「でもまぁ、フェイトはやっぱり攻撃に偏り過ぎてるなぁ」
 「うん……わかってるんだけど、やっぱり私には高機動戦闘が合ってるから……」
 「それはそうだろうけどね」

 フェイトはなのはの様に相手の攻撃を受け止めてから反撃するタイプではなく、
 自らの高機動に得意の射撃魔法を織り交ぜて一撃離脱を決めるタイプなので、防御はあまりしない。
 その為か、彼女のバリア出力はAAAクラスとしてはそれ程高くは無く、先の戦闘訓練でもの攻撃で簡単に破られてしまっている。
 まぁ、AAAとAAA+の差は見た目に比べると相当大きなものなのだが。

 「ま、フェイトとまともにやり合えるような魔導師はそう簡単にはいないけどね」

 が笑いながら言う。

 「そ、そんな事ないよ……私だって、もっと強くなりたいし」
 「そうだね、フェイトならいくらでも強くなれるよ」
 「そうかな……?」
 「そうだよ、アルフだっているんだから」

 使い魔は存在するだけで主の魔力を消費し続ける。
 特にアルフのように高い能力を誇る使い魔は、それだけ多くの魔力を消費する。
 逆に言えば、アルフやリーゼ姉妹のような優秀な使い魔をもっている魔導師はそれだけ優秀であり、
 フェイトが管理局から高く評価され、すぐに嘱託魔導師となれたのもアルフの存在があったからこそと言えるだろう。

 「ありがとう……」
 「どういたしまして」

 フェイトは少し頬を赤くして言い、が笑って答える。

 「……そういえば、はいつ嘱託魔導師になったの?」
 「僕は……二年前くらいかなぁ。 フェイトの時と一緒で、リンディさんとエイミィさんに薦められたんだ。
  肩書きがある方が、色々と便利って言われたからね」
 「そうなんだ」
 「僕は筆記とか全然ダメだったから、リンディさんがかなり手を回してくれてたみたいだけどね」

 がその時の事を思い出しながら苦笑いをして言う。
 彼の時はかなり特別で、リンディだけでなく、グレアムや局長までが手を回しており、
 かなり高難度で多種多様な戦闘試験を全て合格しなければならないというもので、はそれを全て合格して嘱託魔導師となっていた。

 「でも、それだと魔法の構築とか大変なんじゃないの?」

 魔法を使用する為には、術者の魔力を変化させ効果が得られるように調節や組み合わせをしなければならない。
 その為には数学や物理といった知識を持っている事が、魔法の構築・制御等でかなり重要になってくるのだが。

 「あぁ……僕の魔法はちょっと特別なんだ。
  記憶は忘れてるけど、魔法の使い方とかは体が覚えてるみたいで、微調整はがしてくれるんだ。
  さっき使った誘導操作弾も、何回も使って感覚を取り戻してる感じだったから」
 「そう……不思議だね。 あれ? は?」

 フェイトがいつもの耳にイヤリングとしてついているデバイス達がいない事に気付き、彼に尋ねる。

 「二人はリンディさんに話があるとかで、今は艦長室にいるんじゃないかな」
 「そう」


 "アースラ"艦内艦長室 同日 同時刻


 「……それは、本当なの?」

 リンディが神妙な面持ちで目の前にふわふわ浮いている二人のデバイスに問いかける。

 《えぇ……あの子の結界は、日に日に弱まっている》
 《ほんの僅かずつではあるがな》
 「……それで、結界が全て消えたら……はどうなるんだ?」

 リンディの横に座っているクロノもまた、厳しい表情で問う。

 《それは私達にもわからないわ》
 《PT事件の時、第二結界が消えかけた時はなんとか抑えれたが、次は抑えれるかわからないからな》
 《抑えきれなくなったら、あの子も私達も暴走するかもしれない》
 《それだけの魔力が俺達……特ににはある》
 《今のは第一結界解除の持続時間が二分にまで伸びているわ。
  こんなに伸びる事は今まで無かったんだけど……》
 「……それも、結界が弱まっている事に関係があるのね」
 《恐らく……な》
 《レイジングハートが近くにあったのも……関係あるかもしれないわ》
 「だが、がレイジングハートを手に取った時は何も起こらなかったじゃないか」
 《でも、あれからの結界解除の持続時間がどんどん伸びていったわ》
 《第二結界が消えかけたのが関係あるだけかも知れないけどな》
 「……とにかく、いずれ結界は消えてしまう……という事ね」
 《ええ……そういう事よ》
 《遅くて十年か……早くて数年以内には……な》
 「「 …… 」」

 その場に沈黙が流れる。
 は、このままずっと平穏……とは言えないだろうが、管理局の局員として生きていく事はできない。
 残酷とも言えるその宣告に、リンディとクロノは言葉を失う。

 「……の記憶は……どうなるんだ?」

 クロノが沈黙を破って問う。

 《それもわからないが、結界が消えれば記憶も戻るかもしれないな》
 《私達の記憶も戻るかもしれない》
 「え? でも、あなた達はメモリーバンクから消されたって……」

 リンディが三年前、初めての三人と話した時の事を思い出しながら問いかける。

 《あれはまだあなた達に信を置けなかったから言っただけ》
 《俺達はデバイスではあるが、間違いなく人格がある。 無論、記憶もだ》
 《私達もと同じように記憶を失っているわ》
 「そうだったの……」
 「デバイスに人間並みの知能と感情を持たせるなんて……」

 インテリジェントデバイスにも自己判断機能はついているが、この二人程高度な知能を持たせる事は、管理局の技術をもってしても不可能であった。
 ましてやこれ程まで人間に近い人格、さらにはあまりにも流暢に話しリンカーコアすら内蔵するデバイス……現在の技術では到底作れるものではない。

 《そうね……私達も、古代の遺産かもしれないわ》
 《とにかく、この事は誰にも言わないで欲しい、にもだ》
 「……わかった」
 「いずれは言わないといけないはずよ」
 《……今はまだ……時期ではないと思うわ》
 《知らなくて良い事も、この世にはある》
 「「 …… 」」



 時空管理局内裁判所前 12月2日 時刻19:45


 「いや〜、無罪になってよかったね〜」
 「ほんとだよ、これでなのは達にも会えるね、フェイト」

 は背伸びをしながら、アルフは本当に嬉しそうに言う。

 「うん……ありがとう、皆」

 フェイトが頬を少し赤くして、五人に礼を言う。

 「とにかく、なのはに早く知らせよう。 クロノ、アースラの通信設備は使える?」
 「……」
 「クロノ君?」

 ユーノに話しかけられても、クロノは何か考え事をしているらしくそれに答えなかった為、エイミィが声をかける。

 「ん……? あぁ、管制室を使うと良い」
 「クロノ、裁判の時もそうだったけど、なんか変だよ?」

 クロノの悩みの種である張本人が普通に心配して声をかける。

 「いや、少し考える事があってね、そんなに気にする事じゃない」
 「そっか……っ!」

 が急に妙な違和感を覚える。

 「?」

 フェイトが心配そうに問いかける。

 「……なんか……嫌な感じがする……」
 《の嫌な予感は良く当たるからな》
 《そうね……とりあえず、なのはちゃんに連絡を入れておきましょう。 きっと気にしてるだろうしね》
 「そうだね、よし、ちゃちゃっとアースラに行きますか」

 エイミィが前を歩き、それに五人がついて行く。
 は背中に嫌な冷や汗が伝うのを感じつつ、嫌な感じを振り払おうとする。
 しかし、それは頭の中に纏わりついて離れてくれなかった。


 "アースラ"艦内管制室 同日 時刻19:50


 「おかしいなぁ……やっぱり繋がらない」

 エイミィが先程から何度もなのはの携帯に通信を繋げようとするが、全く繋がらなかった。

 『大変だ! さっき本局で調べて貰ったんだけど、海鳴市の市街地に広域結界ができてるらしいんだ!
  昨日も今回と同じ場所で局の捜査員二人が魔導師に襲撃されてるらしい!』

 本局に問い合わせに行ったがアースラスタッフ全員へ念話で送る。

 「なんだって!?」
 『フェイトさん! アルフさん! ユーノ君! 三人はまず現場へ向かって下さい!
  クロノはエイミィと一緒に管制室で待機! 君は至急、アースラへ戻って』
 『「「「「「 了解!! 」」」」」』

 リンディが素早く指示を出し、六人が一斉に答える。

 ようやく訪れた休息もあっという間に終わってしまい、また新たな事件が彼らを飲み込もうとしていた。




 あとがきらしきもの

 優「さってさて、第一話後編も無事に終わりました〜」
 ユ「これは無事って言えるのかな……?」
 優「まぁまぁ細かい事は気にしない!」
 ア「そんなのでいいのかい……」
 ク「いつもこんなんだ、気にするな」
 フェ「それはそうだね」
 優「うっ……なんか手厳しい……」
 「でも、これって明らかにあとがきとは言えないよね」
 優「らしきものだからいいんだよ!」
 な「とにかく早く助けてよ〜……」
 さっさと終われ


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