海鳴市市街地結界内 同日 時刻20:03


 「本気でやる気か? ただでは済まないぞ」

 シグナムとヴィータと同じ高度まで上がってきたにシグナムが警告する。

 「……確かに、今のままならね」
 「……なんだてめぇ、意味わかんねぇ事言いやがって」
 「二分、その間に……一人でも倒す!」

 そう言った瞬間、が第一結界を解除する。
 彼の周りに莫大な魔力が放出されて大気を揺るがし、青年の姿に戻る。

 「なっ……!?」
 「なんなんだこいつ!」

 目の前にいた少年の魔力値が跳ね上がり、更に姿まで変えたので二人が驚愕する。

 「……いくぞ」
 《Edge Move》
 「!?」
 「消え……」
 「ヴィータ! 後ろだ!!」
 「えっ?」
 「はああ!!」

 突如がヴィータの背後に現れて斬りかかり、ヴィータを吹き飛ばす。

 「うああ!?」

 吹き飛ばされたヴィータは、その先にあったビルに激突して粉塵が舞う。

 「貴様!」
 「っ!」

 シグナムがそれを見て怒り、に襲い掛かる。
 二人が目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出し、紙一重の攻防を繰り広げる。
 しかし、一瞬の隙を突いてで薙ぎ払い、その衝撃でシグナムを弾き飛ばす。

 「くっ……!」
 「このやろーーー!!」
 《Schwalbefliegen》

 ヴィータが舞い上がった粉塵の中から飛び出して4つの鉄球を生成し、グラーフアイゼンで殴り飛ばす。
 それを無言で見据え、を前に出して魔力を集中し、その周囲に10個のフォーススフィアを生成する

 「撃ち落とせ」
 《Force Bulitt》

 から10個の魔力弾が放たれ、その内の4つがヴィータの放った鉄球と接触して爆発し、残りが二人に向かって突進する。

 「ちっ……!」
 「下がれヴィータ!」

 シグナムがヴィータの前に出てレヴァンティンに弾丸を装填させる。
 レヴァンティンに炎が纏い、飛んでくる6つの魔力弾を見据えたシグナムが構える。

 「陣風……!」
 《Sturmwellen!》

 シグナムがの放った魔力弾を衝撃波で撃墜したかに見えた時、その魔力弾が爆発して強力な爆風と魔力負荷がシグナムを襲う。

 「……ぐっ……」

 爆発の衝撃で彼女の騎士甲冑に無数の傷ができ、かなりのダメージを負う。

 「シグナ……!?」

 それを見たヴィータが急に背後から強大な魔力を感じて振り向くと、が冷めた眼で自分とシグナムを見据えていた。
 咄嗟に自分とシグナムが直線状に並んでいる事に気付いたが、既に遅かった。

 「薙ぎ払え」
 《Blast Fang》

 が振り上げていたを一気に振り下ろし、溜め込んだ魔力で強烈な衝撃波を放つ。
 それは射線上の空間を喰い破りながらヴィータとシグナム目掛けて突進する。

 「っ……!(はやて!!)」
 「させん!!」

 ヴィータは目を瞑って死を覚悟したが、ザフィーラがその前に立ちはだかり、両手を前に突き出してシールドを張り衝撃波を受け止める。
 強力な衝撃波を渾身の力を振り絞って防ぐザフィーラだが、あまりの威力に彼の手甲に無数の亀裂が入っていく。

 「ぐっ……うおおおおおおお!!」

 衝撃波とシールドが反発し合い、最後に魔力の塊と化したそれが魔力爆発を引き起こす。
 なんとか耐え切ったザフィーラだが、彼の腕は血にまみれ、手甲と甲冑がボロボロになっていた。

 「防がれた……? アルフは!?」

 がアルフの魔力を辿って探すと、彼女は狼形態で倒れていた。

 『アルフ!』

 が念話でアルフに話しかける。

 『ごめん……かなりやられたよ……』

 アルフは相当ダメージを受けているようで、途切れ途切れでに答えた。

 「っ……もう魔力が……」


 「ゼェ……ゼェ……」
 「ザフィーラ!」

 自分達を庇い、かなり疲労した様子のザフィーラにシグナムが心配して声をかける。

 「……大……丈夫だ……」

 明らかに大丈夫ではないその返事にヴィータとシグナムが激昂する。

 「くそっ……アイゼン! カートリッジロード!!」
 《Raketenform》
 「レヴァンティン!!」
 《Explosion!》

 ヴィータとシグナムの二人が怒りを露にしてに襲いかかる。

 「くっ……!」
 《後20秒切ったわ!》
 《来るぞ!》
 「ラケーテン!」
 「紫電……!」

 ヴィータとシグナムがの左右に回り込んで突撃する。

 「ハンマーーーーー!!」
 「一閃!!」
 「っ……エイギスシールド!」

 右手でシグナムのレヴァンティン、左手でヴィータのグラーフアイゼンを受け止める

 「ぐっ……っ……」

 左右から強烈な一撃を叩き込まれ、その波動で周囲の大気が激しく揺れ動く。

 「こんのおぉぉ……! ぶち抜けーーーーー!!」
 「叩き斬れ!!」
 《《 Jawohl! 》》

 二人が更にもう一発弾丸を装填して威力を高める。
 それと同時にの結界が元に戻ってしまい、シールドの強度が落ちて一気に突破される。

 「くっ!」
 《まずい!》
 《Fortification!》

 がバリアを張ってギリギリのところで防ぐが、
 カートリッジ二発分の威力には耐え切れずバリアは破られ、その衝撃では吹き飛ばされ爆音を立ててビルに激突する。

 「ぐぁっ! っつ……」
 《!》
 《大丈夫か?!》
 「だ、大丈夫……っ!」

 がなんとか立ち上がろうとするが、結界解除の負担と激痛でまた座り込んでしまった。
 心配しているもかなりのダメージを受けており、全体に亀裂が入っている。

 「ちっ、てこずらせやがって……」
 「ここまでだな」
 「……」

 ヴィータ・シグナム・ザフィーラの三人がを見据える。

 「く……そ……」
 「チェーンバインド!」
 「なっ!?」

 突如緑色の魔力の鎖がヴィータを縛る。

 「ヴィータ! !?」
 「撃ち抜け、轟雷!」
 《Thunder Smasher》
 「っ!」

 更に同方向から金色の光条がシグナムを襲い、それをシールドを展開して防ぐ。

 「だあああああ!!」
 「ちぃっ!」

 アルフが人間形態でザフィーラに突進して吹き飛ばす。

 「……ありがとう」
 「ここからは僕らがやるから」
 「まかせときな!」
 「……ごめん、ありがとう……」

 が申し訳なさそうに顔を伏せ、それを見た三人が敵三人と同じ高度まで上る。

 「ぐっ……はあぁ!」

 ヴィータが力を込めて無理矢理バインドを引き千切る。

 「この野郎……」
 「ここからは僕が相手だ!」
 「お前との力の差ははっきりしている……それでも私とやるか?」
 「例えどれだけ差があったとしても……私は退きません」
 「……良い気迫だ、私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターが将、シグナム。 そして我が剣、レヴァンティン。 お前の名は?」
 「……ミッドチルダの魔道師……時空管理局嘱託……フェイト・テスタロッサ。 この子はバルディッシュ」
 「テスタロッサ……それにバルディッシュか」
 「……」
 「お前も、その状態でやる気か?」
 「はっ、ボロボロなのはお互い様じゃないか」
 「……ふっ、それもそうだな」
 「「「 いくぞ! 」」」
 「「「 ……! 」」」

 ヴィータとユーノ、シグナムとフェイト、ザフィーラとアルフが光跡を描いて上空へ飛翔する。


 「……ぐっ……くっ!」

 が体中に走る痛みを堪えながら立ち上がろうとする。

 《!》
 《無茶するな!》
 「あの状態じゃ……皆不利だ……。 なんとか……結界だけでも……!」
 《……》
 《……わかったわ》
 「フォースブラスター……あれで……結界を破る!」


 なのはが、上空で死闘を繰り広げるフェイト達を不安そうに見つめ続ける。

 「助けなきゃ……っ……私が皆を……助けなきゃ……!」
 《Master》
 「……?」
 《Shooting Mode, Acceleration》

 レイジングハートが桜色の翼を展開する。

 「レイジングハート……?」
 《Let's shoot it, Starlight Breaker》(撃ってください、スターライトブレイカーを)
 「そんな……無理だよ、そんな状態じゃ……」
 《I can be shot》(撃てます)
 「あんな負担の掛かる魔法……レイジングハートが壊れちゃうよ……!」
 《I believe, Master》(私はマスターを信じています)
 「……」
 《Trust me, my master.》(だから、マスターも私を信じてください)
 「……レイジングハートが私を信じてくれるなら……私も信じるよ……」
 なのはがレイジングハートを構え、桜色の魔法陣を展開する。
 『フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、君……私が結界を壊すから、タイミングを合わせて転送を!』
 『なのは……!』
 『なのは……大丈夫なのかい?』
 『……っ』
 『……くっ……』
 『大丈夫、スターライトブレイカーで撃ち抜くから! レイジングハート、カウントを!』
 《All right》


 「……っつ……あぁぁあ!!」

 が激痛を訴え続ける体を無理矢理抑え込んで立ち上がる。

 「はぁ……はぁ…………なんとか撃てる……?」
 《……
 《わかってる、俺の魔力を二人に流す》
 「……くっ!」

 をアンカー代わりにビルの床に突き刺す。
 そしてを構え、その尖端に残りの魔力を全て集中する。

 「っ……こんな……痛みくらい……!」


 《Count \,[,Z,Y,X,W,V,V,V……》
 「レイジングハート、大丈夫?」
 《No proble. Count V,U,T……》


 「「 っ!? 」」

 なのはとが後一歩で砲撃魔法を放とうとした時、異様な感覚が二人の体を襲って動きを止める。


 「……?」
 「なのは!」

 フェイトとユーノがその異変に気付いて、大切な人の名を呼ぶ。


 「ぐっ……うわあああああっ!?」

 結界が外部からの侵入者と接触し、暴走してフィールの体に激痛と精神的苦痛を容赦なく与え続ける。

 《《 ! 》》

 それに気付いたが、暴走を止める為に魔力砲撃のチャージを止め、の体内で荒れ狂う魔力を抑え込む。


 「!? きゃあ!!」

 旅の鏡を使って、なのはとのリンカーコアを奪おうとしたシャマル。
 が、なのはは上手くいってものものは結界に阻まれて上手くいかなかった。

 『シャマル!?』
 『だ……大丈夫……』

 異変を感じたシグナムが念話で問い掛ける。


 「! なのは!! っ!?」
 「……」

 フェイトがとなのはを助ける為に駆けつけようとする。
 しかし、瞬時に移動したシグナムが、無言でレヴァンティンを構えて立ち塞がった。


 「リンカーコア……捕獲! 蒐集開始!」

 シャマルが宙に浮かぶ闇の書に手を当て、リンカーコアの魔力を吸収させる。

 《Sammlung》(蒐集)

 黒っぽい紫色の怪しい光を放ちながら闇の書がなのはの魔力を喰い、ページを増やしていく。


 「あっ……くっ……っ……!」
 《Count 0》
 「ス……スターライト……ブレイカーーーーーーー!!!」

 なのはが振りかぶったレイジングハートを振り下ろし、収束させた魔力を結界目掛けて叩き込む。
 強力無比な桜色の光条が結界を貫き、それを一瞬で吹き飛ばす。


 "アースラ"艦橋 同日 時刻20:10


 「結界、破れました!」
 「映像、来ます!」

 アースラの艦橋のモニターに映像が入ってくる。


 「な、何これ? どういう状況……?」
 「これは……こいつら……」

 管制室のモニターにも次々と映像が映り、それを見てエイミィとクロノが戸惑う。


 海鳴市市街地結界内 同日 同時刻


 破られた結界の魔力の残滓が、雪の様に海鳴市に降り注いでいく中、
 なのはがレイジングハートを落として倒れ、も気を失って倒れる。

 『結界が抜かれた! 離れるぞ!』
 『……心得た』
 『シャマルごめん、助かった』
 『うん……一旦散って、いつもの場所で、また集合』

 四人が魔力の光跡を引きながら、その場を離れて行く。


 "アースラ"艦内管制室 同日 時刻20:11


 「……っ……あぁ、逃げる……! ロック急いで! 転送の足跡を!」
 『やってます!』
 「あっ! あれは!!」

 クロノが一つのモニターに映った映像を見て驚愕する。


 リンディがモニターに映し出される映像を見て素早く指示を飛ばす。

 「いけないわ! すぐに向こうへ医療班を飛ばして!」
 「中継転送ポートを、開きます!」
 「それから、本局内の医療施設の手配を!」
 「了解です!」


 『だめです! ロック外れました……』
 「あぁ……もう! くっ!!」

 エイミィが机を両手で叩いて悔しがる。

 「ごめん、クロノ君……しくじった……クロノ君?」

 謝ったエイミィだが、クロノから何の反応も無いので不思議に思って問いかける。

 「第一級捜索指定遺失物……ロストロギア……闇の書……」

 クロノが呟く様に言う。
 少しも目を逸らす事無くモニターを見つめ続ける彼の手は、強く握り締められていた。

 「……クロノ君、知ってるの……?」

 それを見たエイミィが、小さく問いかける。

 「あぁ……知ってる。 少しばかり……嫌な因縁があるんだ……」




 あとがきらしきもの

 優「ごめんなさあああああああああい!!」
 ク「なんだ急に!?」
 優「いや……ほんとにもう更新が遅くなっちゃって……」
 エ「ほんっとにねー」
 な「確かに……ちょっと遅くなったね……」
 フェ「うん、そうだね……」
 「遅すぎだね」
 優「が!? ストレートに……」
 ユ「まぁ……やるしかないよ」


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