時空管理局本局 12月2日 時刻20:45


 六方向に種型のものが延びている独特な形状をしており、至る所に様々な光が輝く美しい外観と内部に一つの街を持つ巨大な艦。
 常に管理局等の艦が出入りしており、時空管理局の本局は母艦とも言える多種多様な機能を備えていた。


 「検査の結果、なのはちゃんも君も、怪我は大した事無いそうです」

 その本局のエレベーターで、エイミィがリンディに報告していく。

 「ただ、なのはちゃんは魔道師の魔力の源……リンカーコアが異様な程小さくなってるんです」
 「そう……じゃあやっぱり、一連の事件と同じ流れね」
 「はい、間違いないみたいです。
  それと、君は結界を外部から無理矢理破られそうになった事が原因で、大きな精神的ダメージを負った……との事です」
 「……そう」

 リンディが少し俯いて表情を厳しくする。

 「ただ、だからすぐにどうこうと言う程深刻なダメージではないらしいので、しばらく安静にしていれば大丈夫だそうです」
 「……それだけで済めばいいけれど……」
 「……そうですね、休暇は延期ですかね。流れ的に、うちの担当になっちゃいそうですし」
 「仕方ないわ、そういうお仕事だもの」

 そう言って、二人は顔を見合わせて苦笑いをした。


 時空管理局内通路 同日 同時刻


 「いや、君の怪我も軽くて良かった」

 クロノが振り返って治療を受けていたフェイトに言う。

 「クロノ……ごめんね心配掛けて……」

 それを聞いて、包帯が巻かれてある左手から視線をクロノに戻して謝るフェイト。

 「でもう慣れてるよ、三年間あいつの無茶に付き合わされてるんだから。 気にするな」

 クロノはそう言って苦笑いをし、フェイトもそれにつられる様に表情を緩めた。

 「なのはと……大丈夫かな……」

 フェイトが心配そうな表情で呟く。

 「医師の話だと、二人とも安静にしていれば大丈夫らしい。
  はなのはに会った後に行けばもう目を覚ましてるよ。 あいつは頑丈だからね」
 「うん……そうだね」

 クロノの話を聞いて、笑みをこぼすフェイト。
 PT事件から半年、局に来た当初は以前と同様に無表情でいる事がほとんどだったが、
 やエイミィと接していく内にフェイトは随分と感情表現が上手くなっていた。
 何よりよく笑うようになったので、その事を嬉しそうに話す母との姿がクロノの脳内に鮮明に映し出される。

 「とりあえず、なのはに会いに行こう」
 「うん」

 そう言って、恐らく近い内に自分の義妹になるであろう少女と一緒に、なのはの居る医務室へ歩を進めるクロノであった。


 時空管理局本局内医務室 同日 時刻21:07


 「でも、この部屋にもほんとにお世話になってるなぁ……」
 《確かにな》
 《何かあったらここに運ばれてるからだと思うわ》

 先刻のダメージはどこへやら、そんな会話をする三人。
 が発見されてからこの方、彼が怪我等をした時は必ずこの部屋が宛がわれており、殆ど彼専用の医務室となっていた。
 まぁ、裏でグレアムや局長が手を回しているからではあるが。

 何気ない話をしていた時、医務室の扉が開き、なのは・フェイト・クロノの三人が訪ねて来た。

 「あ、三人ともいらっしゃい」
 「いらっしゃいって……お前なぁ……」
 「まぁ……らしくて良いと思うけど……」
 「にゃはは……君、もう大丈夫なの?」

 三人がの天然(?)発言に少し呆れ、そして安心した様に返事をし、なのはが尋ねる。

 「ああ、僕はもう大丈夫。 なんてったって頑丈にできてるからね」
 《頑丈さと回復力だけは良いからな》
 「……だけってひどくない?」
 《ま、それがの強みね》
 「も大丈夫なのか?」
 《ああ》
 《私達もと同じよ。 頑丈さと修復機能の良さなら負けないわ》
 「そうか」
 「なのはこそ大丈夫? まだ寝てた方が……」
 「私ももう大丈夫だよ、元気いっぱい!」

 そう言って、フェイトに見せた時の様に元気良く振舞うなのは。

 「そっか! フェイトは? 怪我してるみたいだけど・・・」
 「え……ぁ、私は……全然平気……。 だから、心配しないで……」

 が心配そうに自分を見つめるのが嬉しいような恥ずかしいような……、
 とまぁ恋する乙女の複雑な悩みを抱えるフェイトは少し頬を赤くし、俯いて小さな声で答えた。

 「そう? なら大丈夫だね」

 そのフェイトの悩みの種である張本人はその事に全く気付いていないのだが。

 『フェイトちゃんも大変ね〜、を振り向かすにはかなりの努力をしないといけないみたいよ』
 『え!? あの、私は……その……』
 『一気にキスでもしちゃえば、流石にでも気付くでしょうけど』
 『えっ? ……〜〜〜っ』
 『ま、頑張りなさいね、応援してるわ』

 急に顔を真っ赤にして俯いてしまったフェイトに疑問の視線を投げかける4人。
 この場にいる、を除く者達は相当などんか……もとい、相当な朴念仁であろう。

 《とりあえず、メンテナンスルームに行くんでしょう? クロノ》

 念話でフェイトを耳まで真っ赤にさせた張本人は何食わぬ顔(?)でクロノに促す。

 「え? あ、あぁ、そうだな」
 「フェイトちゃん、大丈夫?」
 「顔真っ赤だよ?」
 「なっなんでもないよっ!」
 「「 そ、そう? 」」
 《あの娘には刺激が強過ぎたかしら?》
 《何の話だ?》
 《こっちの話よ》
 《……?》

 その後、フェイトの真っ赤な顔はなかなか元に戻らなかった。


 時空管理局本局内メンテナンスルーム 同日 時刻21:21


 メンテナンスルームでは、傷ついたレイジングハートとバルディッシュの修復が行われていた。
 それの修復を担当する機器をユーノが操作し、アルフがそれを心配そうに見守っている時、
 メンテナンスルームの扉が開き、なのは・フェイト・クロノ・の四人が姿を現す。

 「あっ」
 「なのは! フェイト! !」
 「ユーノ君! アルフさん!」
 「なのは、久し振り!」
 「なのは」

 ユーノとアルフは無言で頷き、少し遅くなってしまった再会を喜ぶ。

 「……みんな」

 なのはもまた再会を喜び、少しだけ目を潤ませていた。

 「、もう大丈夫なの?」
 「うん、心配掛けちゃったかな……?」
 「心配するに決まってるじゃないか!」
 「あはは……ごめん、ありがとう」

 ユーノ・アルフ・の三人が話をしていると、フェイトが修復中のバルディッシュの元に歩み寄る。
 そして、傷ついた愛杖の姿を心配そうに見つめる。

 「バルディッシュ……ごめんね、私の力不足で……」
 「破損状況は?」
 「……正直、あんまり良くない。 今は自動修復をかけてるけど、基礎構造の修復が済んだら、一度再起動して部品交換とかしないと……」
 「そうか……」

 なのはもまた、大破してしまった愛杖を心配そうに見つめる。

 「ねぇ、そういえばさぁ……あの連中の魔法って、なんか変じゃなかった?」

 アルフが尻尾を振りながらクロノに尋ねる。

 「あれは多分、ベルカ式だ」
 「ベルカ式?」
 「その昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系だよ」
 「遠距離や広範囲攻撃を、ある程度度外視して、対人戦闘に特化した魔法で……優れた術者は、騎士と呼ばれる」
 「……確かに……あの人、ベルカの騎士って言ってた……」
 「最大の特徴は、デバイスに組み込まれたカートリッジシステムって呼ばれる武装」
 「儀式に圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に、爆発的な破壊力を得る」
 「……あれか、あれは厄介だね……」

 の脳裏に、先刻の戦闘でシグナム・ヴィータと呼ばれた二人の魔導師が使用していた時の事が映し出される。

 《危険で物騒な代物、か》
 《その機能を使ってこそだけど、と私達の防御魔法を打ち抜いたんだから……》
 「……」

 が悔しそうに手を握りしめる。

 「……なるほどね……」

 その場に危機感を含んだ短い沈黙が流れる。

 「いっぱい頑張ってくれて……ありがとね、レイジングハート。 今はゆっくり休んでてね……」

 なのはが自分の愛杖に心配そうに話しかける。

 「フェイト、そろそろ面接の時間だ」
 「うん」
 「なのは、、君達もちょっといいか?」
 「「 ? 」」

 なのはとは理由がわからず、顔を見合わせる。


 ユーノとアルフが自動販売機で飲み物を買って休憩をとっていると、エイミィが姿を見せる。

 「ユーノ君、アルフ」
 「エイミィ」
 「レイジングハートとバルディッシュの部品、さっき発注してきたよ。 今日明日中には揃えてくれるって」
 「ありがとうございます」

 エイミィがウィンクをして吉報を知らせ、ユーノとアルフに笑みが零れる。

 「で……さっき、今回の件がうちの担当になったの」
 「え? でもアースラは整備中じゃん?」
 「そうなんだよねぇ……あ、そうだ! クロノ君知らない?」
 「なのはとフェイト、それにと一緒に面接だって」
 「なんか、管理局の偉い人だそうですけど……」
 「へぇ〜」


 時空管理局本局内応接室 同日 時刻21時30分


 「「 失礼します 」」
 「クロノ、、久し振りだな」

 クロノとが同時に挨拶をし、グレアムが振り向いてそれに答える。

 「ご無沙汰しています」
 「グレアムさんも、元気そうで良かったです」


 応接室に備え付けてある椅子に腰かけたなのはとフェイトに、ほのかに良い香りのする紅茶が出されていた。

 「保護観察官といっても、まぁ形だけだよ。 リンディ提督から、先の事件や、君の人柄についても聞かされたしね。 とても優しい子だと」
 「ありがとうございます……」

 フェイトが少し照れて俯きながら答える。


 「グレアム提督は、クロノ君の指導教官だった人なんだよ。 君も指導を受けてたね」

 エイミィがメンテナンスルームの機器を操作しながらユーノとアルフに話す。

 「歴戦の勇士。 一番出世してた時で、艦隊指揮官。 後に、執務官長だったかなぁ」
 「めっちゃくちゃ偉い人じゃん!」

 それを聞いて、ユーノとアルフが素直に驚く。

 「うん、でも良い人だよ〜。 優しいし」


 「ん? なのは君は日本人なんだな。 懐かしいな、日本の風景は」
 「?」
 「私も、君と同じ世界の出身だよ、イギリス人だ」
 「ふええ?! そうなんですか!?」
 「あの世界の人間の殆どは、魔力を持たないが……稀にいるんだよ。 君や私の様に、高い魔力資質を持つ者が。
  ははっ、魔法との出合い方まで、私とそっくりだ。 私の場合は、助けたのは管理局の局員だったんだがね。 もう、50年以上も前の話だよ」
 「はぁぁ〜……」

 なのはが目をパチクリさせて驚く。

 「フェイト君、君は……なのは君の友達なんだね?」
 「はい」
 「約束して欲しい事は一つだけだ。 友達や、自分を信頼してくれる人の事は、決して裏切ってはいけない。
  それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しない事を約束する。 できるかね?」

 グレアムはフェイトの眼を真っ直ぐに捉えて問い掛ける。

 「はい、必ず」

 フェイトもまた、真っ直ぐな眼でグレアムに答える。

 「ん、良い返事だ」


 応接室の扉が開き、なのは・フェイト・が頭を下げる。

 「提督、もうお聞き及びかもしれませんが……。 先程、自分達がロストロギア……闇の書の捜索・捜査担当に決定しました」
 「そうか……君がか……。 言えた義理では無いかもしれんが……無理はするなよ」
 「大丈夫です。 急時にこそ、冷静さが最大の友、提督の教え通りです」
 「ん、そうだったな」
 「では」
 「ああ、は少し残ってくれるか?」
 「え? あ、はい」

 クロノ達に先に行っててと伝え、グレアムの方へ向きなおす

 「すまないな、実は君の結界の状態がわかったんだよ」
 「結界の……ですか?」
 「うむ、、今日から一ヶ月の間は結界解除を禁止する」
 「え!?」
 《……どういう事だ?》
 「それは君達が一番良く分かっているだろう? 結界の状態は今非常に不安定になっている。
  その不安定な状態のままで結界を解除し、無理な戦闘を行えばどうなるか」
 「……それは……」
 「戦闘は極力避ける事だ。 リンディ提督にも話をしておいた。 いいかね?」
 「……はい……」

 が立ち去った後、グレアムは決意の秘められた眼でじっと閉じられた扉を見つめ続けていた。


 海鳴市内八神家 同日 同時刻


 「それにしても、ほんまに大丈夫なんか? 今日は皆えらい疲れてるみたいやけど……」

 八神家の主、そして、ベルカの騎士達の主でもある、足の不自由な少女……八神はやてが既に家族同然となっていたシグナム達を心配する。

 「だ、大丈夫だってはやて、そんなに心配しなくても」
 「今日はちょっと皆で遠くまで行ったので、少し疲れただけですから……」
 「……ほんまか?」
 「すみません、主はやて」
 「……」
 「皆がそう言うんやったら、きっとそうなんやろな。 わかった、じゃあお風呂入ってぱーっと疲れを流してまおか!」
 「うん!」
 「はい、丁度お風呂の支度もできましたから」

 そう言って、シャマルがはやてを抱きかかえる。

 「シグナムは、お風呂どうします?」
 「私は今夜はいい。 明日の朝にするよ」
 「そう?」
 「お風呂好きが珍しいじゃん」
 「たまには、そういう日もあるさ」
 「……シグナム」
 「だ、大丈夫です、主はやて。 たまには朝風呂も趣があって良いかと思っただけですから……」

 はやてがまた心配そうにシグナムを見つめたので、シグナムが珍しく慌てて話す。

 「……そっか! ほんならお先に」
 「……はい」
 「……今日の戦闘か?」

 それまで黙っていたザフィーラが問い掛ける。

 「……聡いな、その通りだ。 あの少年……いや、青年かも知れんが……かなり厄介な相手になりそうだな」
 「……そうだな……」
 「それに、テスタロッサ……澄んだ太刀筋だった、良い師に学んだのだろうな。 武器の差が無ければ、少々苦戦したかも知れん」
 「だが……それでもお前は負けないだろう」
 「……そうだな……。 我等、ヴォルケンリッター……騎士の誇りに懸けて……」




 優「や、やっと書けた……」
 「お疲れ様〜」
 ク「一週間に一回更新できてないじゃないか」
 優「ぐ……A'sの原作沿いになってから妙に書くのが難しくて……」
 エ「メインキャラが増えたから?」
 優「・・・( ̄  ̄;) うーん、なんとかせねば!」

 5/9に若干内容を修正しました。


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