海鳴市中丘町八神家はやて部屋 12月4日 時刻6:30 カーテンの隙間から朝日がはやての部屋を照らす。 目覚まし時計のアラームと鳥の鳴き声が心地の良い眠りを覚まし、一日の始まりを告げる。 目を開けたはやてがアラームを止め、ぐっと背伸びをして眠気を飛ばした。 「ん……ふぁ〜ぁ」 あくびをして横を見ると、ヴィータが呪いウサギの人形を抱き締めて熟睡していた。 アラームの少しけたたましい音も、熟睡中のヴィータには全く効果がなかったようだ。 ヴィータの寝顔を見て微笑むはやて。 それは、大切な妹を案じる、優しさに溢れた表情だった。 ヴィータが寝返りをうち、ずり落ちてしまっている布団を静かに掛けてやると、はやては車椅子に乗ってリビングへ向かった。 「あ……」 リビングのソファーで、座ったまま寝てしまっているシグナムと、そのすぐ傍で丸まって眠るザフィーラがいた。 普段は常に冷静沈着且つ無表情で、隙を見せる事が全くと言っていい程無い二人の寝顔は、妙に新鮮さがあり、はやては思わず笑ってしまった。 海鳴市桜台林道 同日 時刻6:35 まだ街が目を覚ましていない早朝、そして、人気の全くない桜台の林道に、一人の少女とフェレットがいた。 PT事件の後、なのははユーノを師として毎日欠かさず魔法の鍛練を積んできた。 リンカーコアの状態は良くはないが、それが鍛練を怠る理由にはならないし、なのは自身もそんな気はさらさら無かった。 なのはが両手を器のようにし、その中心に魔力を収束させる。 なのはの魔力光である桜色の小さく丸い魔力の塊が生成されるが、それはすぐに消えてしまった。 それを見たなのはとユーノが溜息をついた。 海鳴市市街地ビル屋上 同日 時刻6:41 とあるビルの屋上で、子犬フォームのアルフが見守るなか、フェイトが熱心に素振りを続ける。 その時、屋上に繋がる階段への扉が開き、その音にフェイトとアルフが少し驚いて振り返る。 「二人とも朝早いんだね〜……」 「?」 扉を開けた人物は、まだ眠そうに目をこするだった。 「眠いんなら、まだ寝てればいいじゃないか。 学校に行かなきゃいけない時間まで、もうちょっとあるだろ?」 その様子を見てアルフが言う。 「クロノに叩き起こされたんだよ……。 フェイトはもう起きて朝から鍛錬してるのにいつまで寝てるんだ! ……って」 「そ、そうなんだ」 「クロノはほんとにマジメだね〜」 「ほんとほんと、あれは生真面目が服着て動いてるようなもんだよ、ったく」 《お前はもう少し見習った方がいいと思うぞ》 《そうね、それは私も思うわ》 「うっ……」 がいつもの様にとに指摘されてうなだれる。 《ま、せっかく珍しく、早く起きたんだ。 フェイトと一緒に鍛練すればいいと思うぞ》 「珍しくを強調しないでよ……」 《でもこんなに早く起きる事なんて滅多にないんだから、時間を無駄にする手はないわ》 「うぅ〜……わかったよ……、じゃ、二人とも」 《ああ》 《わかってるわ》 とが一瞬光に包まれ、基本形態となっての手に収まる。 「ごめんねフェイト、邪魔しちゃって」 「うぅん、そんな事ないよ。 気にしないで」 が少しばつが悪そうにフェイトに謝る。 三人のやりとりを少しぼーっと見ていたフェイトは、急に謝られた事に少しだけビックリしたが、すぐに返事を返した。 「ありがと」 「う、うん……」 そう言って微笑んでくるに、少し照れながら答える。 どうもこの笑顔に弱いフェイトは、横で鍛練を始めたを見つめる。 なぜこんなにも気になるのか、どうして彼の動作の一つ一つにこんなにも反応してしまうのか。 相変わらずはっきり答えの出てくれない疑問にまた包まれそうになったが、それを振り払う様に素振りを再開したフェイトだった。 海鳴市中丘町八神家 同日 時刻6:54 味覚をくすぐる良い香りと、トントントンというリズム音がシグナムを眠りから覚ました。 「ごめんな、起こした?」 「あっ……いえ……」 はやてが問い掛けてきて、更に自分が毛布を纏っている事に少し驚いたが、 もう朝になっている事に気づき、立ち上がって毛布を畳む。 「ちゃんとベットで寝やなあかんよ、風邪ひいてまう」 「す、すみません」 はやてとシグナムの声で目を覚ましたザフィーラも、恐らくはやてが掛けてくれたであろう毛布を畳む。 ……しかし、口だけで綺麗に毛布を畳むザフィーラは案外凄いかもしれない。 「シグナム、夕べもまた夜更かしさんか〜?」 「ああ……その……少しばかり」 真実を言えない事に少し罪悪感を覚えつつも、それは仕方の無い事だと自分に言い聞かせつつ、シグナムは電気をつける。 曖昧な返事しかできない自分に、笑っただけで全くその事を追及しないはやてに感謝する。 振り返ると、車椅子に乗っているはやてが傍まで来ていて、自分を見上げていた。 「ホットミルク、あったまるよ」 「ありがとう……ございます……」 はやてが差し出してくれたカップを、ぎこちなく笑みを浮かべつつ受け取る。 「ザフィーラにもあるよ。 ほら、おいで」 「すみません! 寝坊しました〜!」 リビングの扉が勢いよく開けられ、そこからかなり慌てた様子で寝癖が目立つシャマルが走ってきた。 「おはよう、シャマル」 「おはよう! あぁもぅすみませんはやてちゃん……」 「えぇよ〜」 エプロンを着ながら、少しオーバーなシャマルに、はやては笑いながら答える。 「……おはよ〜……」 今度はヴィータが呪いウサギを掴んでリビングに姿を見せた。 髪の毛はボサボサで目は閉じたままではあるが。 「うわぁ〜、めっちゃ眠そうやなぁ〜」 「眠い……」 「もぉ、顔洗ってらっしゃい」 「ぅぁ〜……ミルク飲んでから……」 「はい」 「……」 そんな、どこの家庭にでもありそうな、家族のいる、当たり前なのであろう平和な光景を複雑な心境で見つめるシグナム。 しかし、そんな靄のかかっている心に反して、はやての入れてくれたホットミルクのぬくもりは、不思議な程心地良かった。 (温かい……な……) 私立聖祥大学付属小学校三年一組 同日 時刻8:00 始業の合図であるチャイムが小学校中に鳴り響き、ホームルームを始めた担任教師が話す。 「さて皆さん、実は先週急に決まったんですが、今日から新しいお友達が、このクラスにやって来ます。 海外からの、留学生さんです。 フェイトさん、君、どうぞ」 「「 失礼します 」」 担任教師の声を聞き、フェイトが扉を開けて先に中に入り、もそれに続く。 クラスの生徒達が、二人とも容姿端麗である事に気づいて声をあげる。 「あの……フェイト・テスタロッサといいます……。 よろしくお願いします」 「・です。 よろしく」 フェイトはかなり緊張しながら頭を目一杯下げて挨拶し、は至って普通に笑顔で挨拶をした。 『ってこういう場面では絶対緊張しないわよね〜』 『無神経なだけだと思うけどな』 『……それは流石に酷いと思うわよ?』 いつもならの耳にイヤリングとしてついているとだが、 日本という国で小学生がアクセサリーの類をつけていると色々と厄介だとなのはが教えてくれていたので、 今日からが学校へ行く場合は鞄につけられる事になっていた。 ・・・まぁそんな状態でが緊張してないとわかる二人は流石といえるのだろう。 フェイトとの挨拶に対して拍手が起こり、教室中に響き渡っていた。 休み時間、すなわち授業と授業の合間に生徒と先生が休息をとる、少し短いが生徒達にとって一番楽しい時間でもある。 仲の良い友達と喋ったり遊んだり、そんなこんなですぐに過ぎてしまう時間なのだが。 今日は急に転校生が来て……しかもそれが留学生という事で、いつもより賑やかな休み時間となっていた。 教室の一角で、フェイトとがクラスの子達に囲まれて質問責めを受けていた。 「ねぇ、向こうの学校ってどんな感じ?」 「あ、私、学校には……」 「僕も学校は行ってなかっ……」 「すげぇ急な転入だよね、なんで?」 「ん……その……」 「まぁ色々あっ……」 「日本語上手だね、どこで覚えたの?」 「前に住んでたのってどんなとこ?」 「えと……あの……その……」 「……」 『人の話は最後まで聞けよっ?!』 『、落ち着いて……』 『よっぽど二人が珍しいんだろうな』 『そうみたいね、よくわからないけど』 『にゃはは……』 「フェイトちゃんと君、人気者……」 「でもこれはちょっと大変かも……」 「はぁ……しょうがないなぁ……」 先程から質問の嵐の真っただ中のフェイトとを見るすずか・なのは・アリサの三人。 すずかは相変わらずマイペースに、なのはは念話が聞こえる為か困ったように、アリサに至っては見かねて仲裁に入って行った。 「はいはい!」 アリサが手を叩きながら二人を取り囲んで質問を続ける子達を止める。 「転入初日の留学生を、そんな皆でわやくちゃにしないの」 「アリサ」 「ふぅ」 アリサの一言で皆が静まり、フェイトは安心し、はやっと解放されたと一つ息を吐いた。 「それに質問は順番に。 フェイトとそこのが困ってるでしょ?」 「そこのって……」 「何よ? せっかく助けてあげたのに、なんか文句ある?」 「……別にありません」 『……相変わらず強いな』 『も尻に敷かれちゃってるわね』 『……アリサに勝つ自信ないよ……』 が肩を落として念話でとと話していると、一人の少年が手をあげてまた質問が再開した。 「はい! じゃあ俺の質問から!」 「はい、いいわよ」 『まだやるんだ……』 『う、うん』 フェイトとがちらっと顔を見合せる。 最初に自己紹介をした時は大した事なかったのになぁ〜……、と、この妙な雰囲気の変化に対応しきれていないだった。 「向こうの学校って、どんな感じ?」 「えっ?」 「いや、だから行ってないって・・・」 「へぇ〜、じゃあどうやって勉強してたの?」 「うっ……(勉強なんてほとんどやってないよ……)」 「えと……私には家庭教師というか……そんな感じの人に教わってて……」 「そうなんだ〜」 「はいはい! 次私〜!」 「私もー!」 「俺だって!」 「はい! ちょっと待って! 待ってー!」 その光景を、微笑ましく見守るなのはとすずかだった。 海鳴市市街地ハラオウン宅 同日 時刻9:12 『クロノ君、駐屯所の様子はどう?』 クロノの魔力光である水色の魔法陣で空間モニターが作動させられ、本局にいるレティが近況を尋ねる。 「機材の運び込みは済みました。 今は、周辺探査のネットワークを」 『そう。 ご依頼の、武装局員一個中隊は、グレアム提督の口利きのおかげで、指揮権をもらえたわよ』 「ありがとうございます、レティ提督」 クロノが頭を下げて礼を言う。 慢性的な人手不足で悩まされている時空管理局では、自らが所属する部署以外の局員や部隊を借りる事は中々に難しい。 さらに、今回クロノが依頼した部隊は局内でも数が少ない航空武装隊であった為、許可を得るのは相当難しいのだが、 そこはグレアムがなんとかしてくれたようである。 歴戦の勇士の肩書は伊達ではないという事だろう。 『それから、グレアム提督のところの使い魔さん達が、会いたがってたわよ〜。 可愛い弟子に会いたいって』 レティがクロノをからかうようにして言う。 クライドに似て生真面目過ぎるクロノを見て、少し肩の力を抜いてやろうというレティのささやかな心遣いでもあるのだが。 「リーゼ達ですか……。 その、適当にあしらっておいていただけますか?」 それをクロノは真に受け、物凄く複雑な表情でレティに頼む。 『わかったわ。 それじゃ、私はこれで。 リンディによろしくね』 その様子を見てレティはクスクス笑いながら答えた。 アリアとロッテがクロノに会いたいと言っていたのは本当であったが、これで少しは毒抜きができただろう。 「はい、ありがとうございました、では」 そう言って空間モニターを切り、リビングへ向かうクロノ。 「おう、クロノ君。 どう? そっちは」 エイミィが冷蔵庫から取り出したオレンジジュースを片手にクロノに尋ねる。 「武装局員の中隊を借りられた。 捜査を手伝ってもらうよ」 「航空武装隊でしょ? 今回依頼したのって。 良く許可が出たね〜」 「グレアム提督が色々と手をまわしてくれたみたいだからね。 今度お礼をしないと。 そっちは?」 「良くないね〜……、夕べもまたやられてる」 エイミィがクロノの横に腰掛け、テーブルに置いてある機器を操作してモニターを起動させる。 そこには、夕べ新たに出た被害の情報が、事細かに映し出されていった。 「今までより、少し遠くの世界で……魔導師が十数人。 野生動物が、約4体」 「野生動物?」 「魔力の高い、大型生物。 リンカーコアさえあれば、人間でなくてもいいみたい」 「まさに形振り構わずだな」 「でも、闇の書のデータを見たんだけど……何なんだろうね、これ……。 魔力蓄積型のロストロギア。 魔導師の魔力の根源となるリンカーコアを喰って、そのページを増やしてゆく・・・」 エイミィがモニターに闇の書の立体映像を出し、それを少し厳しい目で見ながら話す。 「全ページである、666ページが埋まると、その魔力を媒介に真の力を発揮する。 次元干渉レベルの、巨大な力をね」 喋りながら、クロノはテーブルに置いてあるオレンジジュースに手を伸ばす。 「んで……」 が、そかはちゃっかりしているエイミィ。 話を繋げつつも、クロノの手が届かない所へオレンジジュースを移動させる。 目的を失った手が虚しく宙に浮く結果となった。 「本体が破壊されるか、所有者が死ぬかすると、白紙に戻って別の世界で再生する・・・と」 「様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に護られ、魔力を喰って永遠を生きる」 オレンジジュースを諦めたのか、はたまたエイミィに言っても仕方がないと長い付き合いである相方の性格から悟ったのか、 立ち上がったクロノは冷蔵庫を開いて飲み物がないか探す。 無論、その間も何事もなかったかのように話を続けているあたりが、二人の付き合いの長さを物語っていた。 「破壊しても、何度でも再生する、停止させる事のできない、危険な魔導書……」 「それが……闇の書? 私達にできるのは、闇の書の、完成前の捕獲……?」 「そう。 あの守護騎士達を捕獲して、さらに主を引きずり出さないといけない」 「うん!」 私立聖祥大学付属小学校 同日 時刻12:02 四時間目の授業が終わり、昼休みの始まりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。 「つ、疲れた……」 「うん……」 教室を出て、片手に弁当を持ったが疲労感をあらわにしながら廊下を歩いて行く。 結局、あれから午前中の休み時間は全てクラスの子達、さらには噂を聞いてやってきた他のクラスの子も混じって、質問の雨あられとなっていたのだった。 慣れない学校の環境と授業の影響もあってか、フェイトももかなり疲れてしまっていた。 やっと質問をしてくる子もいなくなり、なのは・フェイト・アリサ・すずか・は弁当を食べに屋上へ向かっている途中である。 「二人とも、大丈夫?」 「なんとか……」 「大丈夫だよ」 二人の様子を見て、なのはが問い掛けると、二人は苦笑いを浮かべながら答えた。 「フェイトちゃん、君、初めての学校の感想はどう?」 すずかが後ろ向きに歩きながら質問する。 「年の近い子が、こんなに沢山いるの初めてだから、なんかもうグルグルで・・・」 「とりあえず疲れたよ……」 「にゃはははは……」 「だらしないわね〜。 ま、すぐに慣れるわよ、きっと」 「うん、だといいなぁ」 「そうだね」 私立聖祥大学付属小学校屋上 同日 時刻12:06 聖祥小学校の屋上は、生徒や先生が息抜きしやすいように設計がなされており、こまめに清掃されている為か非常に美しい。 冬で少し肌寒いが、心地の良い風が吹き抜け、中央にある花壇の、季節外れに咲く不思議な花の良い香りも心を穏やかにしてくれる。 屋上にやってきた五人は、対になっているベンチに腰掛けて弁当を食べている。 一方はなのは・アリサ・すずかの今まで通りの三人組が、もう一方には、フェイトとが座っていた。 「しっかしあんたの弁当箱大きいわね……」 「そう?」 「見るからに大きいでしょーが」 「あぁ〜……まぁね」 のそれは、他の四人がそれぞれ持つそれの三倍は軽くあった。 男の子が女の子より食べる量が多いのは良くある事だろうが、 こんなに大きな弁当箱を持ってくる同い年の男子をアリサは見た事がなかった。 「でも、リンディさん毎朝その量だと大変なんじゃないかな?」 「僕は何も言わなかったんだけど、朝起きたらものすんごく張り切っちゃってて……」 「うん、あれは凄かったね……」 すずかに尋ねられ、とフェイトが今朝の事を思い出す。 確かに今回の弁当の量は流石のでも半端ない気がする。 もちろん、にしてみれば弁当の量は多い方が良いのだが、リンディは、 「クロノ以来だから♪」 と、満面の笑みを浮かべながら、やけに気合が入っていたのだった。 台所が色んな食材で覆われていた事は言うまでもない。 それだと食費がかなりかかってしまうんじゃないか、という実に現実的な懸念もあるだろう。 が、ハラオウン宅に住んでいる者全員が、提督・執務官・執務官補佐、そして嘱託が二人と立派な肩書を持つ者ばかりだ。 余程の荒遣いでもしなければ、お金に困るなんて事はそうそう無い訳で。 その弁当にデザートとしてようかんを入れるあたりが、実にリンディらしいといえる。 話が逸れてしまったが、おかげで流石のもこの量には苦戦している。 まぁ、既に大半は食べ終えてしまっているあたりがなんとも……。 「あ、そういえば五時間目はドッジボールなんだよ。 そんなに食べて大丈夫?」 「「 どっじぼーる? 」」 フェイトとが見事に声を合わせてなのはに聞き返す。 「つまり、自分とは違うコートにいる人にボールを当てて、どちらか片方の人がいなくなったら終了ですよ」 「なるほど」 「わかりました」 三年一組の生徒達は体操着に着替えて運動場に集まっていた。 フェイトとがドッジボールを知らないという事で、先生が説明をし、二人が納得する。 「とりあえずやってみましょうか。 それじゃ二組に分かれてね」 「「「「「「「「「「 は〜い 」」」」」」」」」」 「フェイトちゃんと君は運動神経が良いから、すずかちゃんとは別チームだよ」 「へ? なんで?」 「?」 「ま、やればわかるわよ」 「う、うん」 なぜすずかと別チームにしなければいけないのかわからない2人だったが、この後それを嫌という程思い知らされる事になる。 「始め!」 先生が笛を鳴らして開始の合図をし、ボールを持っていたすずかがゆっくりと動く。 「それじゃ、いきま〜す」 (ん?) (あれ?) とフェイトは異変に気付く。 自分たち以外が、もう線ギリギリまで下がって身構えていた。 それは何か鬼気迫るものを感じさせる程にである。 そして、がすずかの方へ振り向いた瞬間、とんでもないスピードでボールが目がけて飛んできた。 「うおおお!?」 は持ち前の反射神経と何度も経験した実戦の賜物か、ギリギリで避ける事に成功した。 「っくう!」 そのボールを、外野にいたアリサが体で覆うように受け止める。 「いったあ〜……すずか! もうちょっと手加減しなさいよ!」 「ご、ごめんアリサちゃん……」 「……はや……」 「……うん……」 とフェイトは茫然とすずかを見つめる。 「余所見してる場合じゃないわよ!」 「いっ!?」 アリサが全力での顔面目がけて投げつけ、またもやギリギリでそれを避ける。 「ちょ! 危な!?」 「こんなの普通でしょーが!」 「顔は危ないって!!」 「これがドッジボールなのよ!」 「そんな無茶苦茶な?!」 『……そうなの? なのは』 『え〜っと、顔は狙ったらだめなんだけど……』 「いくよ〜」 「わっ!?」 「くっ!」 アリサと言い合ってる間にすずかがに投げ、避けきれなかったがフェイトがそれを受け止める。 「フェイト! ありがと〜」 「う、うん……」 「すげえ!」 「あの球を受けるなんて!」 「アリサちゃん以来だね〜」 他の生徒達が驚く。 どうやら今まですずかのボールを受け切れたのはアリサだけだったようだ。 ではなぜそのアリサとすずかが同じチームかは気にしないでおこう。 「はあ!」 フェイトが跳躍してすずか目がけて投げ込む。 「っ!」 すずかはそれを体を流しながら綺麗に受け止め、更にそのまま遠心力を使ってまだ着地していないフェイト目がけて投げつける。 「えっ?」 そのあまりに見事なすずかの動きにフェイトは驚く。 まだ着地すらしていないのに、すずかが投げたボールがフェイト目がけて飛んでくる。 「っとぉ!」 今度はがフェイトの前に立ちはだかってボールを受け止めた。 「セーフ……」 「あ、ありがとう……」 「お返しだよ。 でもすずかって見かけによらず……」 「うん、なのはが言ってたのってこの事だったんだね」 目の前でいつもの様に微笑みつつも、とてつもない身体能力を誇るすずかに二人は驚きを隠せないでいた。 別に他意はないのだろうけれど、今はあの笑顔が妙に恐ろしく感じる。 「よし! こうなったら意地でも勝つから!」 「うん!」 「望むところよ!!」 「いいのかなぁ……」 負けず嫌いの性格ゆえか、とフェイトは実戦さながらの気迫ですずか、そして彼女と見事な連携を見せるアリサに挑んでいった。 その挑戦をやる気満々で受けるアリサと、少し困ったように苦笑いをしつつも本気でかかるすずか。 いつの間にやら体育の授業は、フェイト・ VS アリサ・すずかとなってしまい、 先生と、なのはを含む生徒達は目の前で繰り広げられる激戦を茫然と見つめ続けていた。 《……暇だな》 《……そうね》 教室で、フィールの鞄にくくり付けられたままのとがぼやく。 《……教科書でも見ようかしら》 《……本はどうやって開くんだ?》 数秒の間。 《……結構不便ね、この姿って》 《……いや、元々こんなのだから仕方ないだろ》 デバイスであるにも関わらず、溜息を吐くと。 窓の方をちらっと見ると、二匹の小鳥が楽しそうにさえずりながら自由に空を飛んで行くのが見えた。 余計に虚しさが募り、また溜息を吐く二人だった。 海鳴市中丘町八神家シャマル部屋 同日 時刻15:07 「それじゃあ、はやてちゃんの病院の付き添いよろしくね、シグナム」 シャマルがベットに腰掛け、先程から直立不動な自分達の将であるシグナムに頼む。 「ああ。 ヴィータとザフィーラは……もう?」 「出かけたわ」 シグナムの問いに手短に答えるシャマル。 闇の書のプログラムである自分達が出かけてする事といえば、一つしかない。 主であるはやてを救う為に、次元の壁を突き抜けてリンカーコアを集め、闇の書を完成させる。 それに関係する以外にすべき事等、今の彼女らにはほぼ皆無であった。 シャマルが傍に置いてあった白い正方形の小さな箱を手に取り、それを開けて中の物を取り出す。 中身は16個の少し大きめの弾丸。 「カートリッジか?」 シグナムがコートを羽織りながら、聞くまでもない事を言う。 ベルカ式カートリッジシステムを搭載したデバイスを振るうシグナムとヴィータにとって、無くてはならない、貴重な弾丸。 「うん。 昼間の内に、作り置きしておかなきゃ」 絶大な破壊力を瞬時に得る事の出来るこのカートリッジも、所詮は消耗品。 絶えずストックを増やしておかなければ、すぐに底を尽きてしまう。 特に、管理局の優秀な魔導師と戦う事になるであろう今後の事を考えると、その使用量は今までより確実に増えるであろう。 「すまんな。 お前一人に任せきりで」 「バックアップが私の役目よ。 気にしないで」 シグナムの言葉に、ほんの僅かだが悔しさを含んだような返事を返すシャマル。 それ以上は一言も発せず、カートリッジに自らの魔力を注ぎ込んでいく。 シャマルの魔力光であるミントグリーンの光が彼女の両手から溢れ、シグナムは少しの間、じっとそれを見つめていた。 私立聖祥大学付属小学校3年1組 同日 同時刻 「起立! 礼!」 「「「「「「「「「「 さようなら〜! 」」」」」」」」」」 「はい、さようなら!」 「あぁ〜……今日はどっと疲れたぁ〜……」 「そうだね……私もちょっと……」 「あんた達気合入れ過ぎなのよ、こっちまで疲れちゃったじゃない」 「アリサだってやる気満々だったじゃないか」 「う、うっさいわね! それはいいのよ!」 「アリサちゃん、落ち着いて……」 『すずか、全然疲れてる感じしないね……』 『……管理局にきてもやっていけるんじゃないかな、すずか……』 『にゃはは……すずかちゃんはほんとに凄いから……ん?』 なのはが念話でフェイト・と話ながら教科書とノートを鞄に入れていると、携帯にメールが送られてきた事を知らせる着信音が鳴った。 サブディスプレイに差出人の名前が映し出される。 〜メール受信 管理局 クロノくん〜 捜査は順調に進んでいる。 君とフェイト、それには、こちらから要請するまでは、普通にすごしていてくれ。 なのははまだ魔力が戻っていないし、レイジングハートとバルディッシュもまだ修理中だ。 非常時はかユーノに任せて、素直に避難するように。 一応、には二人の護衛を任せてあるからね。 追伸一、二機の修理は来週には終了するそうだ。 追伸二、フェイトとに、寄り道は自由だが、夕食の時間には戻ってくるように、と伝えてほしい。 あぁ、あと、くれぐれもに目立たない様にとなのはからも言っておいてくれ、それじゃ。 海鳴大学病院 同日 時刻15:34 「う〜ん……やっぱりあんまり成果が出てないかなぁ〜……」 病院のとある診療室の一角から、若い女性医師が複雑な声色で言う。 「でも、今のところ副作用も出てないし、もう少しこの治療を続けましょうか?」 はやてのかかりつけ医である、石田幸恵医師が、カルテを見つつ、微笑みながらはやてに問い掛ける。 「はい。 えと……お任せします」 「お任せって……、自分の事なんだから、もうちょっと真面目に取り組もうよ」 「ぁ、いや……そのぉ……。 私、先生を信じてますから」 はやては少し困った表情をしてから、屈託のない笑顔で言う。 「……」 その表情と、あまりに純粋な言葉に石田医師は思わずキョトンとしてしまった。 しかし、逆にそれが彼女の心を締め付ける。 正直言って、はやての病気は地球の先進国でもある日本の医療技術をもってしても全く原因がわからないのだ。 ……まぁ、当然といえば当然なのだが、その原因を彼女が知る由もない。 シグナムに話があるとはやてに伝え、彼女が診療室を出たのを確認してから対談する2人。 「はやてちゃん、日常生活はどうです?」 「脚の麻痺以外は……健康そのものです」 「そうなんですよねぇ……。 御辛いと思いますが、私達も全力を尽くしてます」 「はい」 「今はなるべく、麻痺の進行を緩和させる方向で進めてます。 これから段々、入院を含めた……辛い治療になるかもしれません……」 「はい……本人と、相談してみます……」 石田医師は本当に信頼の置ける医者だ。 シグナムは、いや、ヴォルケンリッター全員がそう思っている。 あの口の悪いヴィータでさえ、彼女に対しては敬語を使っている程だ。 今まで闇の書と長い間生きてきて、曖昧な記憶ではあるが、金の事しか考えていない腐った医者モドキを何度も見てきた。 それを考えれば、彼女がはやての主治医である事に感謝するシグナムだった。 しかし、そんな彼女にも本当の事は言える訳もなく、言いたくないがどんな治療を施そうがはやての脚は治らないだろう。 その事に胸を詰まらせながらも、早く闇の書を完成させねばと、また決意を固めたシグナムだった。 あとがきらしきもの 優「ようやっと書けました〜……」 ク「まぁ、それはいいんだが、なんだこの全くまとまりのかけらもない文章は?」 優「ぐっ……ごめんなさい……」 ユ「しっかりしないとだめだよ」 優「むむ〜……精進せねば! それと、更新した後に少し書き足したり変更したりする事が良くあるんですが、 何分更新してから気付く事もよくあるので、そこはご了承ください(*- -)(*_ _)ペコ」 5/29に内容を修正しました。 ちなみに、冬に咲く花ってあるんでしょうか……? ……オリジナルの設定という事でお願いします(;´・ω・`)(ぁ BACK NEXT 『深淵の種 U』へ戻る |