時空管理局本局医務室 時刻1:02


 ……なんというか、この少年はある意味凄いのかもしれない。
 急にそんな事を思ったのはクロノ・ハラオウン11歳。
 確かに時空管理局は広い、一つの都市と言っても過言ではないだろう。
 しかし……しかしだ、医務室を出てわずか五分足らずの所をグルグルグルグル延々一時間近く迷い続けていたこの少年はどうだろうか。
 こっちは医務室から結構離れた場所を探し回っていたというのに……。
 しかもまるっきり初対面のはずのエイミィと会って三分もかからずに既に意気投合している。
 エイミィは、確かに気さくで柔軟思考が服を着ている様な人物だか、これ程早く彼女と仲良くなった人間は珍しい。
 その内話題が自分の方に振られる事が無いように祈る苦労性なクロノであった。


「ほへにひへほ、ほほほひょうひほひひいへふへ」

 口に一杯料理を詰め込んだは、クロノに何かを伝えようとしている。

「……いや、何を言ってるのかさっぱりわからないんだが……」

 困り果てるクロノ。
 見かねてが注意する。

、口に物を入れたまま喋るものじゃないわ》

 そう言われて、は口の中の物を一気に飲み込む。
 が、それがいけなかったらしい。

「んぐ……むぐっ!? んんんっ!!」

 どうやら喉に詰まったようだ。
 エイミィが慌てて水をあげる。

「ゴクッ……ぷはー! 死ぬかと思った……」
《……まったく……食事くらい落ち着いてできないのかお前は》
「だってさ、ここの料理おいしいんだよ? 仕方ないと思うんだけど」
《いや、おいしいとか言われても俺にはわからないんだけどな》
「あ〜、そういやそうだったね」

 なんでこんなにマイペースなんだ……。とうとうクロノは頭が痛くなってきた。
 色々事情を聞こうと思っていたのだが、今では全く聞く気が起きない。


 医務室のドアが開いたのはその時だった。

「あ、艦長」

 エイミィが声をかける。

「あらあら、元気そうね」

 リンディ・ハラオウン
 時空管理局提督でアースラの艦長。
 優秀な魔導師でもあり、クロノの実の母親で優しく包容力のある女性。

「クロノ、事情は聞いてるの?」
「あ、いえ……まだです」
「あら、まだだったの? じゃあ私が聞いちゃおうかしらね」

 心なしかリンディは嬉しそうにしている。
 クロノには理由がわからなかったが、エイミィはわかっているようだ。

「えっと、君……だったかしら? お食事中悪いんだけど、お話してもいい?」

 またもや口の中に食べ物を一杯放り込んでいたは、慌ててそれを飲み込んで頷いてみせる。
 それを見てリンディはクスクス笑いながらも、話を進めていった。

「そうね……じゃあまず、あなたの出身世界はどこなのか、教えてもらえる?」
「……それが……どうも記憶のほとんどがなくなっちゃってるみたいで……」
「そう……じゃあお父さんやお母さん、ご家族の事は?」
「それもわかりません……」

 そう答えて、は顔を伏せてしまった。

 どうやら記憶喪失みたいだな……と考えて、エイミィが録音しているのに気が付く。
 普段はおちゃらけているが、仕事はしっかりこなすのが彼女だ。
 そういう所は関心するし、見習わなければと思う。
 ……無論、見習うのは前者ではなく後者だが。

「じゃあ、さんにさんだったかしら? あなた達は何か覚えている事はない?」
《……いえ、私達のメモリーバンクからも、ほとんどが消去されてしまっているようです》
《あなたの質問に答えられる事はない》

 二人の――というのはおかしいかもしれないが――デバイスは、そっけなく答える。
 どうやら、大分警戒心が強いようだ。……あの少年は警戒心が薄過ぎると思うが。


 う〜ん……と困ったように唸るリンディ。
 それはそうだろう、あれから色々聞いてみたはいいものの、殆ど何もわからなかったのだ。

「ま、起きてすぐに質問責めというのも良くないし、もう夜も遅いわ。
 ゆっくり休んで、もし何か思い出したら教えて頂戴ね」
「あの……何もお答えできなくてすみません……」

 そう言っては頭を下げる。
 それを見て、リンディは彼に近づいて微笑んでみせる。

「思い出せないなら、無理に思い出そうとしなくてもいいわ。
 それに、私達は強要している訳じゃないし、あなた達になにか負い目がある訳でもないのよ。
 ゆっくり考えて、困った事があれば何でも聞いてくれればいいわ、ね?」
「……はい、ありがとうございます。えっと……」
「リンディよ、リンディ・ハラオウン。この子は私の息子のクロノ、仲良くしてあげてね」
「はい、リンディさん。それと……よろしく、クロノ君」

 そう言っては微笑む。
 それを見て、少し照れながらクロノも答える。

「あ、あぁ……僕の事はクロノでいい」
「そう? じゃあよろしく、クロノ」
「あれぇ? なんか私忘れられてないかなぁ?」
「あはは、エイミィさんもよろしくね」
「こちらこそ〜♪」

 もう深夜にもかかわらず、医務室には笑い声が響き渡っていた。




あとがきらしきもの

優「ん〜、第二話前編も無事終わりましたね〜」
ク「……まぁな」
優「なんかクロノ君冷たくない?」
ク「いや、そんなことはないが?(棒読み)」
エ「クロノ君はどうもへたれっぷり全開だから拗ねてるんだよね〜」
ク「なっ! 誰がへたれだって!?」
リンディ「あらあら、なんだか楽しそうね三人とも」
ク「か、母さん……全然楽しくないんですけど……」
優「いや、滅茶苦茶楽しいんですけどっ」
ク「黙れヘボ管理人! スティンガースナイプ!!」
優「ぐはあっ(会心の一撃!優斗に23987のダメージ!!)」
リ「あらあら、仲が良いわね〜」
エ「ここでそう思いますか艦長……」
いいから終われ


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