時空管理局本局内通路 時刻1:37


 深夜の人通りがない通路を、三つの人影が通っていく。

「それにしても困ったわね〜」 

 リンディは、もう何度目か知れない溜息とともにそんな事を言っていた。

「……艦長、何回言ったら気が済むんですか……」
「あらクロノ。任務中じゃないんだし、艦長はないでしょ?」
「え? あぁ……そうでした、母さん」
「ほんっとにクロノ君は素直じゃないね〜、甘えちゃえば良いのに」
「なっ、エイミィ! 僕はもう11なんだから……」
「あらあら、11歳なんてまだまだ子どもよクロノ」

 そう言って、リンディはクロノを抱きしめる。
 それはもうクロノが苦しそうな顔をするくらいにである。

「ちょっ……か、母さん……」
「ほらほら、甘えろ甘えろ♪」
「う、うるさいぞエイミィ! と、とにかく、もう遅いし僕は寝る!」

 なんとか母の腕からすり抜けたクロノは、顔を真っ赤にしながら逃げるように自分の部屋へ走っていった。

「ほんっっっとに素直じゃないね〜」
「でも、ようやく元のクロノに戻ってくれてるみたいね」
「……そうですね……」

 執務官になってからのクロノは、正直なところ、本当に危なっかしかった。
 責任感と周りの期待によるプレッシャーからか、無茶するのは当たり前で、エイミィがからかっても反応しない時すらあった程だ。
 その事に、リンディもエイミィも心を痛めていたが、今日は随分と表情豊かになっている。
 医務室に入ったとき、リンディが嬉しそうにしていたのはこの為だった。

「あの子達には感謝しないといけないわね」
「ええ……でも、不思議な子達ですね」
「そうね……少しでも記憶が戻ってくれればいいんだけど」

 考えても仕方がないが、それでもやはり考えてしまう。
 私もまだまだね……と内心呟きつつ、クロノはちゃんと歯を磨いたかしら、と少々的外れな心配をするリンディだった。

      :
      :
      :

時空管理局本局内医務室 時刻2:46


 クロノ達が去ってから、既に一時間以上経っている、のだが、どうも寝付けない。
 は何度目かわからない寝返りをうっていた。

《……眠れないの?》

 が心配そうに声をかける。

「うん……なんか急に色々考えちゃってて……」
《人というのは夜になると悲観的になるからな、あまり考え込むなよ》

 も遠まわしに心配しているようだ。

《素直じゃないわね、

 そう言うとはクスクス笑う。
 それは、とてもデバイスとは思えない、人間そのものの感情がそこにあるかのように。

《……なにが素直じゃなんだ?》
《なにって、心配なら心配だって言えばいいのに》
《なっ! うっうるさい! 別にいいだろそんなこと!》

 なにがいいんだか、と内心呟きながらは笑い続けている。
 その言い合いをポカンと聞いていたも、つられて笑っていた。

 そこには、本物の家族とまるで変わらない風景があった。

 人とデバイス……そんな事はどうだっていい。
 自分の事を心配してくれる存在がすぐ傍にいる、はそれだけで十分だと思う。

「……ありがと、二人とも」

 自然とこの言葉が出ていた。

《どういたしまして》
《〜〜〜っ、フンッ》

 どうやら怒らせてしまったようだ。
 少し意地悪だったかな、と考えたが、やっぱりからかうのは面白い。
 そんな事を考えつつ、とりあえず後で謝っておこうと考えただった。


 睡魔が少しずつ襲ってくる中で、ふと彼らの事が頭に浮かんできた。
 とても悲しい表情をしていて、それでもどこか優しさが感じられるクロノ。
 明るくて、ずっと笑って話をしてくれたエイミィさん。
 本当に優しくて、僕らの事を気遣ってくれたリンディさん……。

「あの人達、ほんとに良い人ばかりだったね……。なんか色々迷惑かけちゃってるみたいだし、僕らにも何かできないかな」
《……確かに、随分と世話になっているようだしな……》
《そうね、それに……私達には帰るところもないものね》

 ……そうだ、僕らには帰る場所がない。
 いや、それ以前にどこから来たのかすらわからない。
 当分の間は、この時空管理局とやらに厄介になっていなければならないだろう。

 ……また色々考えちゃってるな、と呟いて、とりあえず今は眠る事にした。
 先の事なんて誰にもわかりはしない。
 とりあえず、今はお世話になっているあの人達の手助けがしたいし、ただ厄介になってるだけなんてできはしない。
 それは、も同じ気持ちだと思う。

「……やっぱり、朝になってから考えよう……。それじゃ、二人ともおやすみなさい」
《そう。良い夢が見れると良いわね》
《お、おやすみ……》

 朝起きたら何か思い出せていたらいいなと思いつつ、心地の良い眠気がを包み込んでいた。




あとがきらしきもの

優「第二話後編、どうだったでしょうか〜」
ク「どうだったでしょうか〜、じゃない!」
優「なに怒ってるんですかクロノ・ハラオウン君?(ニヤニヤ)」
ク「こ、こいつ……」
エ「まあまあ、いいじゃないクロノ君!」
ク「よくない! 全然よくない!」
リ「それより、私の出番が少ない気がするわ……」
ク「母さん……僕の事はいいのか……(泣)」
エ「少ないどころか全く出てないキャラのが多いね〜」
優「あっはっは……いやまぁ……ねえ?」
ク「なにが言いたいんだ……」
優「と、とりあえず、ヒロイン達ももうすぐ出ると思うから!」
エ「思ってるだけ?!」
ク「……まあ、読者の方々は見捨てずに最後まで付き合ってやってくれ」


BACK  NEXT

『深淵の種 T』へ戻る