アースラ艦内魔法修練場コントロールルーム 時刻15:36


 コントロールルームにいる四人は呆然としていた。
 今スクリーンに映し出されている光景を誰が想像しただろうか。

 クロノは管理局内でも一目置かれる程の優秀な魔導師だ。
 その証拠に、AAA+という非常に高いランクに執務官の肩書きすら持っている。
 だが、今クロノを相手にしている少年はランク分けもされていないどころか正規の訓練すら受けていない。
 それでも、戦闘開始から五分が経った現在でも、その少年はクロノと互角かそれ以上に渡り合っているのであった。

 一度も射撃系の攻撃魔法を使わずに。

「あの子は……一体何者なの……」

 リンディの口から出た言葉は、その場にいる全員の言葉の様に思えた。





アースラ艦内魔法修練場多目的空間 時刻15:31


 X……W……V……U……T……

(とりあえず様子を見るか)

 カウント0と同時に飛翔したクロノは、同じく飛翔したを確認しつつ呟いた。
 まずは相手の出方を伺い、そして攻撃手段も見た上で冷静に対処する。
 まだ幼いながらも、その卓越された戦闘技術はAAA+という高ランクにふさわしいものであった。

 が、次の瞬間にその考えは打ち砕かれる。

「な……」

 クロノは驚きを隠せずに声を上げていた。
 先程までいたが突然姿を消したのである。

「もらった!」
「っ!?」

 考えるより先に、がクロノの背後から斬りかかっていた。
 しかし、厳しい特訓の賜物か、素早くラウンドシールドを展開してそれを防ぐ。
 かぎ爪の付いた見たこともない剣がシールドと接触し、激しい衝撃がクロノを襲う。

「くっ……!」
「引き裂け! !」
《Aggressive Break!》
「なっ!?」

 なんとか耐え切れそうだった衝撃に更なる破壊力が加わってシールドに亀裂が走る。
 かぎ爪の部分がシールドに食い込んで受け流す事もできず、とにかく防御に専念するクロノ。
 が、その努力も虚しくシールドは破られ、その衝撃でクロノは壁まで吹き飛ばされた。

「ぐっ!」

 壁に叩きつけられ、背中に鈍痛が走る。
 しかし、魔力障壁のおかげで思ったよりも痛みは無かったが。

(何が起こったんだ……一瞬で後ろを取られるなんて……)

 頭がパニックになりそうになったが、急時にこそ冷静さが最大の友、というグレアムの教えを思い出し、
 とりあえず体勢を立て直さないと、と考えた。

(あれは短距離の移動魔法だ……目に見えない程の速さだが、一瞬だけ魔力を圧縮させる為に時間がかかる。
 それさえ見極められれば後は簡単だ)

 一瞬で相手の魔法の特性を見抜くクロノ。
 そこはやはり、流石としか言い様が無い。


「ちょっとやりすぎたかな?」
《あれぐらいしないとあのバリアは破れなかったからな》
「それはそうだけど、反動がこっちまで……」
「隙だらけだぞ、
「!?」

 今度はが後ろを取られる番となった。

《Blaze Cannon》
「しまっ……!」
《っ! Fortification!》

 が寸前でそれを受け止める。
 しかし、零距離で受けた為に防ぎ切れず、壁に叩きつけられる。

「いっ! 〜〜〜っ!」
《大丈夫か!?》
「な、なんとか……」
《戦闘中に油断してどうするの》
「うっ……」
《けど大したもんだな、一瞬であの距離を……》
《ええ、気を引き締めないと次はやられる》
「そうだね」

 立ち上がり、は再び飛翔する。

 それを確認したクロノがミドルレンジの距離まで近づいて話しかける。

「君を相手にするには本気でいかないといけないみたいだ」
「こっちももう油断しないよ、本気で倒しにかかるから」
「……望むところだ!」

 クロノは返答をすると同時に攻撃を再開する。

《Stinger Snipe》

 クロノの使用するストレージデバイス、S2Uから魔力刃が放たれ、めがけて一直線に突き進む。

 それを軽々と避け、反撃に転じる

!」
《Edge Move》

 先程、クロノの背後を取った瞬間移動魔法を使おうとする
 使用する為には一瞬の隙が生じるのだが、クロノはそれを見逃さなかった。

「ここだ! スナイプショット!」
!》

 察知したが警告する。
 精密に誘導された魔力刃が後方からを襲う。

「させるかっ!」

 体を捻り、で魔力刃を撫で斬りにしてそれを防ぐと同時にクロノの死角に入り込む。
 が、それを予測していたクロノは既に攻撃準備を整えていた。

《Stinger Ray》

 S2Uから魔力弾を連続発射する。

「くっ!」

 は超反射でシールドを展開してそれを防ぐ。
 直後、距離をとったクロノが間髪入れずに攻撃する。
 
「スティンガーブレイド!」

 クロノの周囲に15個の魔力刃が生成され、に向けて一斉に放たれる。

「それぐらい!」
《Stream Blade》
(まさか、あの数の中を突っ込んでくる気か?)

 高速で移動しつつ、襲い掛かる15もの魔力刃を叩き落しながら一気に距離を詰めてくるにクロノは驚愕する。
 その一瞬の隙を突いて、はクロノに襲い掛かる。

!」
《Fiercely Penetrate!》

 の刀身の先端部に魔力を集中させ、猛烈に突進する。

「っ……!」

 シールドを展開して防ぐクロノ。
 またしても破られそうになるが、同じ失敗は繰り返さなかった。
 密かに低空に待機させていた2つの魔力刃に攻撃を指示し、の背後を突く。

《! 後ろだ!》
「えっ?」

 完全に裏をかかれたは直撃を受け、空間内に爆音が響き渡る。
 そして音をたてて床に落下した。

(まだだ……)

 クロノは本能的にそう感じ取った。
 直撃させる事はできたが、いまいち手応えがなかったのだ。
 止めの大技を放つ為に詠唱するクロノ。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

 クロノ足元に大きめの魔法陣が浮かび上がり、周囲に100以上の魔力刃が生成される。


「くっそー……クロノ強いなぁ……」
《確かに、直撃を受けるとは思わなかったな》

 魔力刃の直撃を受けた際、一発はがギリギリで防いだが、
 もう1発は防げず、背中のバリアジャケットの一部を吹き飛ばされていた。

《大きいのが来る……》

 が警告する。

「魔力も結構使っちゃったし、これで決めないとまずいかな……」
《あれを使うか?》
「それしかないよ!」
《なら、私の残りの魔力を二人に回すわ》
「ありがとう、
《……いくぞ》


 詠唱が終わり準備が整うと、の無色透明な未確認の魔法陣が浮かび上がる。
 嫌な冷や汗が背中を流れるのを感じたクロノは、生成した全ての魔力刃を一点に集中させた。


「これで決めるよ! クロノ!」

 が大声で警告ともとれる発言をする。

「こっちもこれで決める!!」

 クロノは答えると同時に最大出力で巨大化させた魔力刃を撃ち出した。


「いくよ、!」

 の刀身にありったけの魔力を込める。

「薙ぎ払えっ!!」
《Blast Fang!》

 掛け声と共に、から一気に開放された魔力で強力な衝撃波を放つ。


 両者の魔力の塊が激突し、反発し合って強烈な爆発と閃光を発する。
 それは空間内を覆い尽くして荒れ狂い、とクロノを飲み込んでいった。




あとがきらしきもの

優「さてさて、第四話前編、どうだったでしょうか? 今回は初めて戦闘シーンを入れてみましたー」
ク「……この展開でいくと、僕達はちょっとやばいんじゃないのか?」
優「心配しなくても大丈夫だよ! ……多分!!」
ク「多分を一番強調して心配するななんて良く言えるな……」
エ「まぁなんとかなるって! なんたってバックアップがこのエイミィさんなんだからね!」
ク「……妙に不安なのはどうしてだ……」
エ「あ、それすっごくひどいよクロノ君」
優「さあ、君とクロノ君は一体どうなってしまったんでしょうか!? 後編をお楽しみに!」
ク「さりげなく宣伝するな!」


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