時空管理局本局内中央センター 時刻18:00


「失礼します」
「ああ。入りたまえ、リンディ提督」

 リンディから見て真正面、五人の中央に座り、厳格さの漂う人物、時空管理局の局長が入室を促す。

 少し暗いが、充分に広すぎる室内。
 管理局の中枢に位置する中央センターのとある一室で、管理局のトップにあたる人物五人が半円形のテーブルを囲むように座っている。
 皆が疲れた目をしており、リンディは一瞬哀れみを含むような表情になったが、すぐ仕事時の表情に戻し、目の前に置かれている椅子に腰掛ける。

「今回の件だが、なかなか面白い人材のようだな」

 真ん中右に座っている年老いた男が発言する。
 真っ先に出てきたのが人材の話なのだから、管理局の人手不足は深刻さを増している事が窺える。
 まぁ、そんな事は親友の某人事担当の提督から耳にタコができるほど聞いているのだが。

「まだ人材として採用するかどうかというレベルではない」
「うむ……。リンディ提督、ともかく今から映す資料を見てもらいたい」

 自分の正面にいる高官達の話が良くわからないリンディは、目の前のディスプレイに映し出された資料とやらに目を通す。
 そして、彼女の表情は徐々に驚愕へと変わっていく。

「これは……」
「驚くのも無理は無いだろうが事実だ」
「その資料の通り、少なくとも彼は普通の人間ではないし、デバイスも通常の物とは考えられない」
「普通どころか本当に……」
「この資料は何を根拠に作られたのでしょうか」

 リンディは、なんともあっさりとあの子が普通の人間ではないと言い切り、あまつさえ今一番信じたくない事を言おうとした高官の言葉を遮り、
 なんとか怒りを抑えつつ尋ねる。

「……模擬戦闘前の検査の正確なデータだ」

 それであんなにも時間がかかっていたのか……、今更だが納得する。

 この資料には通常では考えられない事ばかりが載っている。
 ・身体能力及び反射神経等の神経系伝達能力が常人とは比較にならない程の能力が秘められている事。
 ・五感(味覚を除く)が異常に優れている事(理由の一つとして、両目共視力10.0)。
 ・リンカーコアに原因不明の三重もの結界魔法がかけられており、魔力に相当の抑止力が加えられている事。

 デバイスについての記述もあった。
 ・両デバイスの会話能力は現在の魔法技術では決して真似できるものではない事。
 ・デバイス自体にリンカーコアが確認されたという前代未聞の報告。
 ・あの人格は本物の人間から移したのではないか?という極論・・・等。

「とりあえず、模擬戦闘における報告をしてもらえるか?」

 もう一度資料に目を通していたリンディに、一番左に座っている、まだ幾分か若い男が報告を促してくる。

「……わかりました」

 リンディは複雑な気持ちを抱きつつ、模擬戦闘であった事を説明していった。

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      :
      :

 リンディが説明をし終えた後の約三分間、沈黙が部屋を支配した。
 一分や二分は大して長いとは思わないが、三分という時間は妙に長く感じられる。
 ましてや今し方思ってもみなかった事実を知らされたリンディにとっては尚更で、余計に長く感じられた。

「……驚いたな」

 ようやく口を開いたのは局長だった。
 このメンツの中で最も話が分かるのも彼であろう。
 グレアムの友人でもあり、リンディにも幾分か面識がある。

「結界から僅かににじみ出ているだけの魔力で、AAA+に匹敵する戦闘能力か……」
「その結果が全て解かれたら、SSでは済まないかも知れんな」

 各々が自分の意見を述べ始める。
 恐らく、皆が考えている事は大体一緒であろう。
 ……自分もそう考えていたのだから。

「彼らについては暫定的な処置を伝えていたが……、事と次第によっては変更しなければならないかも知れんな」
「そんなっ」

 リンディが立ち上がって抗議しようとするが、局長は手でそれを制止する。

「心配しなくてもいい、リンディ提督。先に言った通り、事と次第によっては……だ。グレアム提督からも話を聞いているからな。
 ……それに、言わずともわかるだろうが今の管理局は人手不足が深刻な問題となっている。彼のように優秀な人材は是非とも局に向かえ入れたい」
「しかし局長、それは少し危険かと……」
「危険かどうかは彼女に判断して貰えば良い」

 そう言って、温和な笑みを浮かべてリンディに目配せをする。

「はい、彼らの事は私が責任を持って監督します」
「うむ……皆も異論はないか?」

 意見を述べる者は誰もいなかった。
 それは、リンディの指揮官としての能力の高さや数多くの実績があればこそであった。
 局長自らが推す人物でもあるというのもあっただろう。

「では、おって正式に通達する。ここでの事は他言無用だ、いいな?」

 その場の全員が無言で頷く。

「よし、これにて解散するとしよう、皆、ご苦労だった。
 すまないが、リンディ提督は少し残っていて貰えるか?」
「わかりました」


 他の四人が部屋を出たのを確認して、局長は口を開いた。

「忙しいところをすまないな」
「いえ……。それより、彼らの事を私に一任してくださって……ありがとうございます」

 そう言ってリンディは頭を下げる。

「なに、君が一番適任だと思ったからね。グレアムからも、そう薦められていたしな」

 笑みを浮かべながら局長は答える。

「そうでしたか……」
「彼らには謎が多いが、君はどう見ている?」
「優しくて、明るくて、他人を思いやる事のできる・……本当に良い子達ですわ」

 リンディは微笑んで答える。

「そうか……とにかく、彼らについては任せよう。何かあればすぐに報告して欲しい。
 それと、くどいようだがここでの事は内密にな。まあ、グレアムには伝えておくが」
「はい、それは必ず。では、私はこれで」
「ああ」


 部屋を出たリンディは、一つ大きな息を吐いた。
 多少の疲れはあったが、それよりも精神的にきたものの方が大きい。

 あの子達は普通じゃない……?

 そんな考えが頭をよぎり、すぐに振り払った。
 少し能力が高いだけで、何も変わりはしない。
 そうだ、別におかしなところなどどこにもないではないか。

 そう自分に言い聞かせて、リンディは医務室に向かって歩き始めた。




あとがきらしきもの

優「さってさて、第五話終了でございます。今回の主役はリンディさんで決定ですねー」
ク「ていうか母さん以外出てないな」
優「まあたまにはいいんじゃないですか?」
リ「そうそう、たまにはいいじゃないの」
ク「いや、別に悪いとは……」
エ「全く、クロノ君は細かいんだから〜」
ク「エイミィ! 話をややこしくするな!」
優「毎度の様にクロノ君がうるさいですけど、後編もお楽しみに!」
ク「……覚えてろ」


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