おまけ 「女四人で何をするでもなく祭りを回るってのも虚しいもんやなぁ……」 「あんたね……、去年も一昨年もその前もそうだったでしょうが。……確かに虚しいけど」 「なのはとユーノ、今頃どうしてるんだろ……」 「気になるならあのまま尾行してれば良かったのに」 やけに泥まみれな美少女四人がどこか哀愁を漂わせながら歩いている。いや、厳密には三人だが。 とにかくなのはとユーノに文句を言いつつ渇望の視線を送りつつ後をつけていたはやて達。 が、なのはがユーノにエスコートをしてもらい始めた頃にやたらと虚しさが募ったので止めた。 すずかはまだ見ていたいと不満気だったが、そこは多数決。今はこうしてただぐるぐる回っている訳である。 ただ、周囲の男性の視線を根こそぎかっさらっている事に四人とも気付いていない辺り、あまり二人の事をとやかく言えない気がするが。 ちなみにリインは隠蔽魔法を行使し続けて疲れてしまい、半実体化を解いてぐっすりお休み中。 「あんな、すずかちゃんはそうでもないやろけど、私らにとっては精神的にものごっつうきついねん……」 「……特に今年は顕著だったわね。あの二人、何かあったのかしら」 「ん〜……別に変わった様子はなかったんだけど。つい最近だっていつも通りだったし」 はやてとアリサがぐったりした様子で言い、フェイトは近頃二人に何かあったかなと思考を巡らせる。 「なのはちゃんもユーノ君ももう15なんだから、そろそろ芽生えてきたんじゃないかな? それよりはやてちゃん、私だって彼氏は欲しいと思ってるんだよ」 「……へ!? それほんまかいな?!」 「はやてちゃん?」 「すいませんでした」 すずかの発言にやたらと驚くはやて。それはもう意外過ぎますと言わんばかりのリアクション付きで。 直後にすずかが極上の笑みを浮かべてはやてに詰め寄り、平謝りする夜天の王がいたりもしたが。 「なんにしろ、今日はなのはとユーノにとって随分と意味のある一日になったわね」 「うん。ほんとによかった」 「ま、幼馴染としては勿論嬉しいけど、一人の女としては普通に負けとるなぁ……」 「……はやて、今日のあんた随分とネガティブ一直線ね」 「私かて恋に恋するお年頃なんやっ! 目の前であんなに惚気られたら落ち込むやら腹が立つやらで……」 「……言わないで、考えないようにしてるんだから」 「アルフも今頃はザフィーラと祭りを楽しんでるんだろうな……」 今日何度目か知れぬ溜息を、三人揃って盛大についた。 これには流石のすずかも虚しさを隠せず、引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。 「おうおう、なにしけた面してんだ姉ちゃん達」 不意に声をかけられ、四人揃って声の主を見る。随分とがたいの良い店主が脚立にふんぞり返っていた。 「あんなおっちゃん、うら若き乙女はいっつも笑顔でおる訳やないねん」 「そうかい、ご高説ありがとよ。しっかしこれまたべっぴんぞろいだな」 はやてがジェスチャーを交えながら言うのを聞き、店主は彫の深い顔を温和に綻ばせながら答えた。 「またとは何よ。私達ほどの美少女なんてそうはいないわ!」 「ア、アリサ……そんな大声で……」 「仮にそうだとしても売れ残り組だけどね」 「うるさいうるさいうるさい! 少しは危機感もちなさいよすずかっ!」 「ガハハハッ! 嬢ちゃん気に入ったぜ! どうだ、欲しいもん取って欝憤晴らすなんてのは。最初はタダにしといてやるからよ!」 アリサが両手を腰に当てて自信満々といった風に宣言し、あまりの大声に恥ずかしくなったフェイトがなだめる。 と、すずかがにこやかな笑顔できつい一言をお見舞いし、せっかくの勢いをあっさり挫かれたアリサがどこかで聞いたようなセリフで怒鳴った。 それを聞いた店主は豪快に笑い、実に気分良さそうにはやて達に射的を進めてくれた。 「お! おっちゃん中々気が利くやないか〜。タダほど安いもんはないでー!」 「わかってるじゃねえか嬢ちゃん! 流石、関西人は伊達じゃねえなっ」 「あったり前や! ありったけ持ってかれても後悔しなやー!」 「言ってくれるねぇ、こいつは面白くなってきたな」 はやてと店主が顔を見合せ、互いに挑戦的な笑みを浮かべる。随分と気が合うらしい。 「確かに面白くなってきたわね。射撃じゃ私に勝てない事を思い知らせてやるいいチャンスだわ!」 「せっかくだし私もやらせて貰おうかな」 「それじゃ、誰が一番とれるか競争だね」 アリサが浴衣の裾を捲り上げて肩を回し、フェイトは真剣そのものの表情で銃を握り締め、すずかはやけに様になった格好で構えた。 店主の豪快な笑い声に集められた人々が、四人の美少女ガンナーの熱戦で大いに盛り上った。 誰が一番かを予想するトトカルチョ(博打)がそこかしこで行われたりして、今年の海鳴祭一番のダークホースイベントとなった。 翌朝、なぜかBJを纏って酔い潰れたフェイト・はやてと、号泣中のアリサと、酒を飲み続けるすずかと店主が発見されたりもしたらしいが、海鳴は至って平和です。 「司書長おかえりなさーいっ!」 「帰って来た! やっと帰って来たぞおおおおっ!」 「待ってました……いやもう長かった……」 「助かった、これでまた生き永らえることがっ……!」 「あれ、おかしいな。司書長がやけに輝いて見えますよ?」 「地獄に仏とはこのことだ! 一つ勉強になったなお前らっ!」 「ああ……! 神様はまだ私達の事を見捨ててはいなかった……!」 祭りの翌日。ユーノが無限書庫に顔を出した途端、勤務中の司書達が一斉にユーノの方に振り向いて歓喜の声を上げた。 たまにユーノが休んだ後も大抵はそうなのだが、今日の喜びようはいつもより凄い気がする。 司書の中には泣き出す者までおり、戻って早々何事かと面食らってしまった。 「……えっと、僕のいない間に何か……」 「あったもなにも! 機動一課・三課・四課から一気に資料請求がきたんですよっ!」 「しかも請求内容ははっきり明記してないし! それでいて量が半端無いしっ!」 「これはハラオウン提督といい勝負してますよ」 「あの鬼畜提督は何が欲しいかわかりやすいからまだマシだ。……かわりに量は狂ってるけどな」 「ちくしょう……俺達を何かの便利屋と勘違いしてるんじゃねえかあいつら……」 「ね。今度道ですれ違ったらぶっ飛ばしてやろうかしら」 「それよりそいつらをここで働かせてやれば良いのよ。どれだけきついか思い知らせてやるわ」 「お、そりゃいいな。犯罪者とか問題起こした職員とかの更正プログラムの一環に無限書庫勤務体験とか作ったりな」 司書達は歪んだ笑みを浮かべながら口々に不平を漏らしている。が、それでも作業を止めていない辺りは流石というべきか。 ていうか聞き流してはいけないような事も言っている気がしたが、受付担当から請求内容を確認するとそれも仕方ないくらいのものだった。 受付といっても司書は司書。彼女も黙々と作業を続けている。が、見るからに疲労の色が見え隠れしており痛々しい。 ユーノは苦笑するしかない。……やっぱりいくらか規制を設けないといけないなと、明後日に予定されている重役会議での発言内容を修正する事にした。 「と・こ・ろ・で」 「へ?」 色々と考えを巡らしながらいつもの定位置に移動すると、いつの間にやら司書達に囲まれていた。 皆が皆満面の笑みを浮かべていて、正直ちょっと怖い。 「えーと……何でしょう」 「やだな〜司書長ったら。忘れたとは言わせませんよー」 「そうそう。約束はちゃーんと守ってもらわないと」 「約束……?」 「もう、相変わらず司書長は焦らし上手ですねー。主に恋愛とか」 いや、何でそこに恋愛が出てくるんだろうか。 まあそれは置いといて、約束って一体何の―― 「……あ」 「あ、じゃないですよ司書長! 早くお・み・や・げ!」 「そうそう。日本っていう世界の食べ物はあんまり食べられないんですから」 「もうそれだけを支えに昨日から徹夜してるんですからねっ」 「まさか忘れたとか言ったりしませんよね〜……?」 しまった、どうしよう。昨日の祭りは……まあ色々あって忘れていた。 なんかもう司書達の眼は狂気の類が見え隠れしている気すらしてきて、……非常にまずい。 ただ、どうしようにも忘れたものは仕方がない。腹を括ろう。一応、男だし。 ……そうさ、僕は男なんだ。髪が長かろうと、痩せっぽちだろうと、女顔だろうとっ! 何故かこの状況で自暴自棄になりだした無限書庫司書長。全くもって不思議である。 「あ〜……実はそのまさかで――」 「やっだなぁそんな冗談いいですよもう司書長ってば」 「いや、冗談じゃなくて……」 「そうですよね、司書長は嘘つくの下手っぴですもんね〜」 「うんうん。す〜ぐ顔に出るもんねぇ……?」 「そうですか、おみやげ忘れましたかそうですかあああああ!」 「自分は高町教導官といちゃいちゃしてた癖に苦楽を共にしてる俺達の事は遠い彼方に吹っ飛んでたんですねししょちょおおおおおおっ」 「絶望したっ! そんな司書長に絶望したっっ!」 「私達の努力ってどうしてこう報われないんですかねえええええ!?」 「私なんて最近寝不足が祟って肌が荒れてきちゃったのにいいいいいっ」 「司書長は男でしかも私達より寝てないのにお肌すっべすべですもんねいいですよねほんとに羨ましいですねぇっ!?」 「あ、あははは……」 おみやげがなかったのがそこまでショッキングだったのか、司書達は全身で怒りやらなんやらを表現しまくっている。 このままでは身の危険すら覚え始めたユーノは嫌な冷や汗が流れるのを感じた。そりゃもう生々しいくらいに。 360度包囲され、少しずつ詰め寄ってくる司書達に対し、ユーノは引き攣りまくった笑みを浮かべるしかなかった。 「すいません、ユーノく……スクライア司書長はいますか?」 そんな折、無限書庫が情報機関として機能し始めてから此の方、ずっと受付嬢をしている小柄な女性は声がした方に顔を向ける。 良く見知った顔がそこにあった。別に何を今更な事を少し照れながら言い直す少女は、管理局教導隊所属のエース。 「……」 無言で上司が居る方を指差す。差された方を見た少女は首を傾げた。 ……それもそうか、と一人納得する。何せ、今現在勤務中の司書全員が司書長を取り囲んで騒いでいるのだから。 「えと……ありがとうございました。あ、それとこれ、私が焼いたクッキーなんですけど……良かったらどうぞ」 「……」 遠慮がちな少女から可愛らしい小さな袋を受け取り、頭を下げる。それに応じるように少女もぺこりと頭を下げ、彼の元へと飛んで行った。 「あ、高町教導官だ」 「ほんとだ。昨日は司書長とお楽しみだった高町教導官だ」 「ふえ?」 「いいなぁ高町さんは……。なんたってお相手は司書長ですもん」 「ね〜。私、恋人なんて一度も……うぅっ」 「あ、あの……」 「あ〜、ごめんなのは。気にしないで」 「気にしないで!? 今気にしないでって言ったよなアンタ!?」 「これを……こんな惨事を気にしないでいられようかっ!」 「いっくら俺達精神鍛えられててもこんなの耐えれませんよ!」 「食い物の恨みは恐ろしいんだよ……クケケケ」 「――で、高町教導官は本日はどういったご用件でしょうかぁ……?」 「は、はい。えと……ユーノ君にお、お弁当を……その――」 「ぬわあああああああああああにいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」 「愛妻弁当か!? 愛妻弁当なんだなこのヤローっ!?」 「しかもそんな恥ずかしそうに頬染めて!? 可愛いんだよチクショウッ!」 「ぐおお……羨ましい……。はっ、羨ましいって言っちまったあああああ!?」 「作る相手がいて羨ましいです。私なんて……」 「私も……」 「同じく……」 「隣に同じ……」 「じゃあ俺が貰ってやる! それで万事解決だっ!」 「そりゃあナイスアイディーアだっ!」 「いいねえ俺もだ!」 「俺も俺も!」 「「「「 却下 」」」」 「「「「 即答っ!? 」」」」 「あ、あの! 皆さんにはクッキー焼いてきたんで!」 「マジっすか!?」 「まさかの急展開に俺の思考回路がついていかないぜっ!」 「高町教導官のお手製クッキーだイヤッッホオオオオオオオオオオウッ!!」 「俺は今……今……! 猛烈に感動しているっっ!!」 「モグモグ……あ、すっごく美味しい!」 「ムグムグ……ほんと! 高町さん、今度私に作り方教えて下さいね」 「パクパク……ってちょっと! 私も教えてほしいですっ!」 「ふえ? あ、は、はい、喜んで」 耳に次から次へと飛び込んでくる喧騒に溜息をついた。何でこう、揃いも揃ってテンションの高い連中ばかりなのだろうか。 少女のクッキーで普段でも十分高いテンションが最高潮となった司書達は、どうやら余ったらしいクッキーを巡って乱闘状態になっていた(主に男性司書) そんな中、司書長と少女はそそくさと司書長室に入って行った。中は某提督のお茶も辛く感じるくらいの甘っだるい空気が充満しているのだろう。 「……(連中は連徹確定、と……)」 この調子じゃ本日の業務はさっぱり進まないだろう。また溜息をつく。 ま、自分の分さえぱっぱと終わらせれば徹夜はせずに済みそうなので、周囲の情報をカットして作業を続けることにした。 「……(そういえば)」 クッキー、食べてなかった。袋の口を開き、一つ口に含む。 さっくりとした食感、控え目な甘さ、微かにする良い香り、しっとりとした喉越し←? 「…………美味しい」 予想以上の味に頬が緩み、思わず声が出てしまった。はっと気付いて辺りを見回すと、タイミングの悪い事に―― 「へえ。アンタ、案外良い声してるんだねぇ」 耳と尻尾を生やした、自分よりもさらに小柄な(直接的にでは無いが)上司がニヤニヤしながら浮いていた。 その後しばらく、常に無口無表情な受付嬢がなぜか犬耳幼女にこき使われたりもしたのだが、それはまた別のお話。 あとがきらしきもの お相手がいない方々メインのおまけでしたね(ぉ いや〜、名も無き司書達は良いです。受付嬢が良い感じのキャラになってくれました。 BACK NEXT 『ゆっくりと』へ戻る |